あれから日吉とは会話をしていない。互いに電話もメールも無し。部活も名目上は引退した今となっては「関わらないこと」はこんなにも容易だ。それが余計に悲しい。
引っ越しの日が徐々に迫ってくる。大事にしなければならない毎日なのに大切にしたい人は近くにいない。
今日も放課後になった。もう日吉とは会えないのだろうか。これが自然消滅というやつなのだろうか。そんなことを考えながら帰る支度をしていると、手元に影が落ちた。
「てめえ、何こそこそ帰り支度なんかしてやがる」
「あ、とべ・・・」
目の前に仁王立ちしていたのは跡部だった。眉間に深い深い皺が寄っている。
「・・・関係ないでしょ」
「あーん?そんな戯れ言はテニス部を見に行ってから言ってみろ」
「え?」
「日吉が滅茶苦茶だ。集中力は無いわ人に当たるわ、とても氷帝の次期部長とは思えない行動だな。」
「そんなっ・・・」
「ま、本人は無自覚だろうが」
私のせいだ。私のせいで日吉の部活にまで支障が出ている。やっぱりまだ言うべきではなかったんだ。もっとギリギリになってから・・・
「おい。何か的外れなこと考えてやがるんじゃねえだろうな」
「へ?」
「日吉の部活態度はアイツ自身の責任だ。まだまだ甘い、それだけのこと」
・・・でも。
「だがお前はどうなんだ」
「、」
「お前ら二人とも最後までそうやって意地張ってるのか」
「私は日吉に意地なんて張ってない!!」
思わず怒鳴ってしまった。違う。私は日吉の気持ちを優先するし自分勝手に振る舞ったつもりは無い。
だけど跡部は溜め息をついて言った。
「お前が意地張ってんのは日吉にじゃねえ。お前自身にだ」