拾ってくださーい
ダンボールにリンゴがはいってる。
えっ?普通だって?いやいや、普通じゃないですよ。
だって、道端に大きなダンボールが置いてあって、その中に赤いリンゴの被り物した人が座ってるんだよ。
ね?普通じゃないでしょ?
ここはアレだ。関わらないのが一番だ。
あ。でも、この道を通らなきゃ家に帰れない…。
うん。ささっと通り過ぎてしまおう。
頭の中で一通り今の状況を整理し終わると、私は足を早めた。
「チッ。シカト決め込んでんじゃねーよ。」
はいっ?
気付いた時には既に遅し。私はその声の主の方を向いて立ち止まってしまった。
真っ赤なリンゴなのに瞳は翡翠色。
幼さの残るポーカーフェイス、華奢な手足からしてこのリンゴは少年だ。
「どーもー。」
『あの、どうも。』
「ミー、ナッポー師匠に捨てられちゃったんですー。」
『えーと、ナッポーって?』
「パイナッポーですよー。」
あぁ、パイナップルね。リンゴの師匠はパイナップルなんだ。そっか、そっか…
『って、パイナップルとリンゴが師弟関係!?意味不明なんですけど!』
「まーそこらヘンはあまり気にしないでくださーい。」
『…それで、私に何かご用でしょうか?』
「あれー?見て分かりませんかー?」
そう言うと彼は自分が入っているダンボールを指差した。
よくよく見るとそこには【拾ってください】の文字があった。
「ここで死んだらミー化けて出る自信ありますよー。」
『え、いや、あの…』
「てなわけで、拾ってくださーい。」
麗らかな春の日に、私は真っ赤なリンゴを拾うしかなかった。
[ 1/3 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]