Ombrello
雨はキライ。
嫌でもアナタの事を思い出すから…。
雨音がやけに耳をつく。
幸せだったあの頃と、それが音をたてて崩れた時の両方を思い出して涙が出た。
これ以上、何も思い出したくなくて両手で耳を塞ぐ。
窓から離れた部屋の隅に膝を立てて座り、背を丸めて俯いた。
・・・
キィと小さな音を立ててドアが開く。
無断で自分の部屋にはいってくる人間がいれば、普段なら蹴り飛ばしているところだが、生憎今はそんな気分でも、状態でもない。
ただ黙って、入ってきた人間が去っていくのを待つことにした。
「まーた、泣いてるんですかー?」
抑揚のない声が部屋に響く。
雨に蛙はつき物なのだろうか?
いずれにしても、確実に今、会いたくない人物が部屋にいることに違いはなかった。
「姫が泣いたからって隊長が戻ってくるわけじゃないんですよー。」
『うるさい。』
核心を突かれて苛立ちがこみ上げてくる。
「雨が降る度こんな風になってたら、いずれ任務に支障をきたしますよー。」
『フランには関係ないでしょ!!』
早く部屋出ていってほしくて顔を上げて怒鳴りつけた。
「関係大有りですー。」
いつも通りの口調なのに、目の前にいるフランの顔は切なげに歪んでいた。
「ミー達は常に死と隣り合わせの中で生活してるんですよ。ちょっとしたミスで姫を失うなんて、ミーはイヤです。」
真っ直ぐ、真剣な目で見てくるフランに怖さを感じて目を逸らした。
お願い、それ以上言わないで。
でないと私は…
「ミーは姫に隊長の事を忘れてほしいでーす。」
『でっ…』
開いた口から出かけた言葉は、フランの人差し指で止められたら。
「でも、それは無理だって分かってますー。だから…」
『………。』
「隊長を好きなままでいいから、ミーの事も好きになってください。」
微笑みながら私の手を握るフラン。
その温かさに、さっきとは違う涙が溢れてきた。
「隊長ごとミーが姫を受けとめますー。ダメですかー?」
ぼやける視界。でも思考ははっきりしていた。
私はなんてズルイ女なんだろう。
スクアーロ、ごめん。ごめんね。
でも、今は…今だけは、フランに甘えさせて…。
「姫ー、好きです。」
握っていた手を引き寄せられ、フランの胸に倒れ込んだ。
『フラン、フラン…。』
ただ、ただ彼の名前を呼び続けた。
何も言わず、頭を撫でてくれる優しいフランの手が心地良くて、私はそのまま眠りに落ちた。
雨が好きだった。
だけど、アナタを失ってキライになった。
でも今は、キミという傘があればこの雨の中も歩いていける。
そう思えるんだ。
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