いつしかキミに…
セットした覚えのない目覚まし時計が何度もけたたましくなる。
それを鷲掴みして思いっきり壁に投げつけて音を止めた。
この際、なぜ目覚ましがセットされてたかは考えないでおく。
とにかく、久しぶりのオフなのだからゆっくり寝ていたい。
布団に潜りなおして、心地良い二度寝を始めた。
「姫ー、起きてくださーい。」
『ん……』
「もう朝ですよー。」
『ぅうん……』
「朝ご飯にしますかー?朝ブロにしますかー?」
『…ぁ…う……』
「あ、それともー、ミーにしますかー?」
ドタンッ!!
予想していなかった言葉が聞こえて、ベッドから転げ落ちた。
「やっと起きましたねー。」
『ふ、フラン!?どうして此処にいるの?』
自分の部屋にいるはずのない人間の登場に思わずたじろぐ。
「なんでって、ミーがせっかくセットした目覚ましを壊して、二度寝を始めちゃった姫先輩を起こすために決まってるじゃないですかー。」
『は?』
あの目覚ましはキミがセットしたのか。
おかげで粉々に粉砕しちゃって買い直しですよ。
って、そうじゃなくて…
『私、オフなんですけど。』
シカメ面して低い声で言えば、何食わぬ顔をしたフランが「知ってますよー。」と答えた。
彼のポーカーフェイスはいつものことだが、今日はさすがに殺意が湧いた。
「ミーも今日オフなんですー。てなわけで、姫先輩デートしましょー。」
『断る。』
「何でですかー?」
『カエルとデートする気はない。』
顔をのぞき込んでくるフランのカエル帽に右ストレートをお見舞いする。
寝起きではあるが怒りを込めた拳は、彼をよたつかせ2、3歩後退させた。
「あーびっくりしたー。」
『普通びっくりだけじゃ済まないわよ、カエル。』
「ミーはカエルじゃなくてフランですー。だいたい、好きでこんなもの被ってるわけじゃないですよー。」
反論してくるフランに今度は左ストレートを喰らわした。
「暴力はんたーい!」
『五月蝿い!!私はカエルや子どもとなんてデートしない!!』
言うだけ言って、フランに背を向けて布団に潜り込んだ。
「わかりましたー。ミーが子どもじゃないって事、今日一日を使って証明しますー。」
私を包んでいた布団が剥ぎ取られ、フランに組み敷かれる。
片手で両手首を頭上に固定されて、動こうにも身動き一つ取れなくなった。
『フラン!冗談はよして!!』
「冗談なんかでこんな事するわけないじゃないですかー。」
翡翠色の真剣な眼差しに捉えられる。
フランの事は嫌いじゃない、寧ろ好きだ。
だけど…この“好き”はどの“好き”だか分かっていない。
戸惑いと不安の表情を浮かべれば、優しいキスが降り注いだ。
「好きです、姫。」
フランの声に、キスに安心感を感じる。
もっと触れてほしい。
自然とそう思った。
『私も、フランのこと…好きかも…』
「かもじゃなくて、好きなんですよ。姫はミーの事が。」
抑えられていた手が自由になる。
憎らしいくらい余裕の笑みを見せる彼の首に腕を回して、自分から唇を重ねた。
『…子どもじゃないって教えてよ…。』
耳元で囁けば、そのまま2人ミルクチョコレートのように甘い時間に身を委ねた。
カエルを被った狼に翻弄されるのも悪くない。
そんな事を思う、私はいつしかキミに首ったけ。
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