人間だから、生きているから…



「姫は悲しそうな顔をいつもしてますねー。」

『そう言ったのはフランが初めてだよ。いつも幸せそうだって言われるもん。』

「それは姫が男を幸せにしてきたからじゃないですかー?」


翡翠色の髪がふわりと揺れる。

テラスの柵を飛び越え下の庭に降り立つキミ。

私を見上げる瞳は真剣で吸い込まれそうになる。


「姫ー、ミーと結婚してくださーい。」

キミの言葉に一瞬、呼吸をする事を忘れた。


『ムリだよ。だって私…』


明日、結婚するんだよ。


「ムリじゃないですよー。」


続く私の言葉はキミの間延びした声で遮られた。


「ミーが姫を幸せにしてあげます。姫はただ、ミーに愛されて、笑ってればいいんですよー。」


滅多に表情を変えないキミが笑いながら、相変わらず抑揚のない声で私を誘う。


「姫ー、ミーと一緒に生きましょー。」


ヒールの付いた靴を脱ぎ捨て、ドレスの裾をたくし上げて柵に足をかけて身を乗り出す。

そのまま重力に逆らわず、キミの胸の中へ堕ちていく。

広げられていたキミの両手は私を優しく抱き留めてくれた。


『フラン、幸せにしてね?』


今日までの自分に別れを告げて、キミとの未来に希望の言葉を口にした。




アナタを縛り蝕み続ける柵なら、壊し捨て去ってしまおう。

弱く脆い人間だから堕ちるのです。

でも、そうだからこそ人間は美しいんです。

姫、生きているのだから、ミーとの幸せに堕ちてください。






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