同じ想いでいて
『ベルなんか大嫌い!!』
そんな私の言葉がムダに広い部屋の中に響き渡った。
言ってしまった…と後悔しても、もう遅い。
目の前にいる王子サマは口をヘの字に曲げて「そうかよ。」とだけ言い残し部屋を出ていった。
『な…によ…』
私の目からは今までずっと我慢していた涙が止まることなく溢れ続けた。
事の発端はハニートラップという任務。
暗殺部隊だが殺すだけが仕事じゃない。ターゲットに近づいたり、情報を得るために色を使うこともある。それがハニートラップ。
私は見た目が暗殺者にまったく見えないらしく、よくこの手の任務に就かされる。決して自分から望んでいるわけでもなければ、好きでもない任務だ。
ベルもハニートラップは好きではないらしく(王子が色仕掛けとかありえねーしと言ってたぐらい)、その任務につくことはまずない。
それなのに、最近のベルは色任務ばかりこなしている。
彼の恋人である私が気分良く生活できるわけもなく、思い切って任務を与えてる主、ボスに話をしに行ったのが今日の午前中だ。
・・・・・・・・
『ボス、勝手な言い分だと分かっていますが…ベルにハニートラップの任務を与えるのやめてください。』
「ドカスが。俺は好きで与えてんじゃねぇ。アイツが自分から進んでやってんだ。」
『…なっ…なんだとぉぉぉー!!』
スクアーロ並みの大声をあげたせいで、その後グラスを投げつけられた上に部屋から蹴り出されたのは言うまでもない。
そして、任務から帰ってきたベルが私の部屋を訪ねて来て冒頭に至る。
・・・・・・・・
ボスからの命令でやってるなら諦めがつく。いや、例えそうでも気分は良くないのだが割り切ることは出来る。
でも、そうじゃない。
ベルが進んでやってるからこそ許せない。私の中に渦巻いてるのは、ヤキモチなんて生ぬるい感情なんかじゃない。
例えるなら地獄の業火によって内側からジリジリ焼き尽くされてるような感じだ。
辛い。苦しい。
『ベルの馬鹿やろう…』
「誰が馬鹿だよ。」
『べ、べりゅ!?』
「噛んでんじゃねぇーよ。」
さっき出て行ったはずのベルはいつの間にか戻ってきていて、私の部屋のドアにもたれながら立っていた。
「ん。」
そう言って差し出されたのはホカホカと湯気を立てているカップ。中を見ると白い、ホットミルクだ。スプーンがさしてあるとこから察するに、私好みに蜂蜜が加えてあるのだろう。
「まぁな。王子やっさしい〜」
本当に優しい王子様なら、恋人がいるのに自ら進んで色任務なんかしないと思う。と、ホントは口に出していいたいけど、敢えて言わずに目でベルに訴えた。
そんな私の視線を気にすることなく、彼はいつも通りに私の横に腰を下ろした。
「お前さ、最近スクアーロのとこに入ったやつと仲良くしてるよな。」
『…ぁ』
「あり得ねーんだけど。」
『へ?』
「だーかーら、王子がいるのに他の男と仲良くするとかあり得ねーし、俺がこんな想いすんのもあり得ねーって言ってんの。」
つまり、ベルは私が新人くんと仲良くしてるのが気にくわない上に、ヤキモチを妬いていたということ。
もしかして、ハニートラップを進んでこなしてたのは私を妬かせるため?
『ベル、ごめんなさい。』
「うしし、分かればいいんだよ。」
ベルはいつも通りに白い歯を見せて笑うと、私を優しく抱き寄せた。
そして、「王子も悪かった。やり過ぎて、ごめん。」と耳元で囁き謝ってきた。
謝ることを知らないと言っても過言ではないベルが謝っているのだ。許さないわけにはいかない。
というか、理由を知った時点でもう怒っていない。むしろ、私も悪かったんだなぁと反省してるぐらいだ。
ベルの背中に腕をまわし、ニッコリ笑って顔を向ければ、仲直りの印と言わんばかりの優しいキスの嵐が降り注いだ。
『ベル大好き。』
お互いに、ずっと同じ想いでいて。
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