花嫁と王子

鏡に映るのは純白のドレスに身を包んだ私。

地の底に沈んでいくような暗い気持ちとは真逆に、真っ白なドレスはキラキラと輝いていた。

瞼が熱くなるのを堪えながら私は静かに目を閉じた。

浮かんでくるのは銀の冠をのせた金の髪、前髪で隠れた目元、淡い桜色した薄い唇。
私の大好きな人。

「なぁ…」

聞こえるはずのない彼の声が聞こえて、ぱっと目を開いた。

鏡に映るのは私と、紫と黒のボーダーのシャツに隊服であろう黒のジャケットを羽織った彼だった。

「花嫁って幸せそうな顔してるもんじゃねぇーの?」

「そうだね…」
(だって幸せじゃないから)

「…ヤなら止めればよくね?」

「そうだね…」
(できるならそうしたいよ)

俯く私の背中に彼は小さく溜め息を漏らした。その溜め息が私の心にチクッと音を立てて刺さる。

「お姫さまは王子としか結ばれないって知ってる?」

彼はそう言うと開け放たれた窓の縁に立った。そして両腕を広げて

「オレが全部受けとめるから、一緒に行こう。姫?」

押し殺していた想いが溢れ出す。純白のドレスを翻して私は彼の胸に飛び込んだ。

すべてを棄てて、たった一つを選んだ。でも、後悔はしてない。

だって、王子さまとお姫さまはいつだってハッピーエンドになるから。



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