花嫁と王子
鏡に映るのは純白のドレスに身を包んだ私。
地の底に沈んでいくような暗い気持ちとは真逆に、真っ白なドレスはキラキラと輝いていた。
瞼が熱くなるのを堪えながら私は静かに目を閉じた。
浮かんでくるのは銀の冠をのせた金の髪、前髪で隠れた目元、淡い桜色した薄い唇。
私の大好きな人。
「なぁ…」
聞こえるはずのない彼の声が聞こえて、ぱっと目を開いた。
鏡に映るのは私と、紫と黒のボーダーのシャツに隊服であろう黒のジャケットを羽織った彼だった。
「花嫁って幸せそうな顔してるもんじゃねぇーの?」
「そうだね…」
(だって幸せじゃないから)
「…ヤなら止めればよくね?」
「そうだね…」
(できるならそうしたいよ)
俯く私の背中に彼は小さく溜め息を漏らした。その溜め息が私の心にチクッと音を立てて刺さる。
「お姫さまは王子としか結ばれないって知ってる?」
彼はそう言うと開け放たれた窓の縁に立った。そして両腕を広げて
「オレが全部受けとめるから、一緒に行こう。姫?」
押し殺していた想いが溢れ出す。純白のドレスを翻して私は彼の胸に飛び込んだ。
すべてを棄てて、たった一つを選んだ。でも、後悔はしてない。
だって、王子さまとお姫さまはいつだってハッピーエンドになるから。
[ 4/40 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]