Silver Bullet
悪寒と供に節々が痛み出し、服が擦れ肌を撫でる度に鈍い痛みが走る。
『ヤバい…風邪引いたかも。』
久し振りにきた体調の崩れに若干苛立ちながら、気だるく重い身体を起こし布団から出た。
火照り始めた顔を化粧で隠して、真っ黒な隊服に身を包む。
とりあえず、常備薬の風邪薬を水で胃に流し込み任務へと向かった。
・・・・
「ししッ、ヘマすんなよ。面倒くせーし、助けねぇからな。」
確かにそう言われたのに、こんな状況になってる自分が情けない。
薬を飲んだと言うのに熱は上がる一方で、身体をうまく動かすことが出来ずにいた。
隙だらけの私に銃弾の雨は容赦なく降り注ぐ。
防ぎきれない。
そう判断した私は死を覚悟して目を瞑った。
途端に宙を浮く身体。
規則正しい鼓動と温もりを感じて少し目を開けば、冷酷な笑みを浮かべた彼が見えた。
空気をも切り裂く鋭いナイフを投げる音の後に響く断末魔。
それを聞いたのを最後に私の意識は途切れた。
・・・・・
真っ白な天井が目に入る。
鉄臭さもなければ、断末魔も聞こえない静寂な白の空間。
『…あ、れ?…任務は…?』
「もう、とっくの昔に終わっだぜ。」
声のする方に顔を向ければ、いつも通りの彼が隣のベッドに腰掛けていた。
「風邪とかダッセェ。つぅか、普通バカは風邪なんか引かねぇんじゃねーの?」
体調を崩して迷惑をかけたのは事実だし、何より彼の手に巻かれている包帯を見てしまっては、言い返そうとしても何も言い返せなかった。
『迷惑かけて、ごめん。』
本当に申し訳なくて、彼の顔を直視できずに目を伏せた。
「ばーか。暗い顔するヒマあるんだったら、さっさと治せよ。」
そんな言葉と一緒に、私の額に少しひんやりとした手が置かれる。
その手の心地よさに熱からきている頭痛が緩和された。
『気持ちいい…。』
「当たり前じゃん。だってオレ、王子だし。」
『なにそれ。』
ベルの優しさに自然と笑みがこぼれる。
伏せていた視線を上げれば近づく彼の唇が見えて、私は静かに顔を逸らした。
「なに逸らしてんだよ。」
『だって、風邪うつっちゃう。』
「うつんねぇよ。天才は風邪ひかねーって相場が決まってんだよ。」
実に彼らしい理由で頬に手が添えられ、唇を重ねられた。
手とは違って熱を帯びている唇は、私を心ごと溶かしてしまいそうになる。
『…ベル……。』
「お前が元気じゃねぇと、王子がつまんないから早く風邪治せよ。」
『うん。』
再び重なった唇は、私を確しかに回復へと向かわせている気がした。
アナタは私の特効薬。
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