存在価値


昔、一度だけベルが彼らしくない発言をしたことがあった。

それは、まだ私達が恋人同士になる前の話。



・・・・


その日のベルは妙に静かで、いつもならウルサいくらいに言ってる“王子”や“天才”と言う単語を一切口にしていなかった。

心配だったし、いつもの調子を戻して欲しくてからかうように声を掛けた。


『王子らしくないんじゃない?そんなに大人しくしちゃってさ。』

「別に…ただ、オレって価値なんかねぇ人間なんだよなって思ってただけ。」

『ベル?』

「価値なんて物はさ、他者の主観のみで暫定されるもんなんだよ。だから、主観側の感情の起伏による時価の変動も激しいってわけ。」

『何言ってるの…』

「いいから、最後まで聞けって。」


ベルお得意のナイフで刺されたかのような鋭い眼を感じ、言葉を続けようとしていた口を閉じた。

彼は前髪越しに私を見据えながら話し出す。


「今この瞬間の高レートが一秒後にマイナスに落ち込むかもしれねぇ。逆も勿論在りうるけどな。つまり…」

『…つまり、ベルにも私にも。ううん、すべての命に潜在的な“価値”がないって言いたいわけね。』


これ以上ベルに価値の無さを語ってほしくなくて口を開いた。


「そういうこと。お前はさ、オレに価値があると思う?少なくともボスは、役に立たなきゃ必要ないって思ってんだろうな。」

自分も私の事も小馬鹿にしたように笑いながら聞くベルに、私は真っ向向かって答えた。

『私はベルに価値がないなんて思わない。他の人がどう思おうと、私にとってベルはすごく価値のある人だから。だって、私は……。』

「なんだよ。」

『私は、ベルのこと大好きだから。どんなベルでも、ずっと好きでいられる自信があるよ。』


顔から火が出そうなぐらい恥ずかしい。

だけど、価値がないとかベルにこれ以上言って欲しくなくて、自分の思っている事を全部言葉にした。


「お前…馬鹿だろ?」

『なっ!?』


人の一世一代の告白を“うしし”と笑うベルを軽く睨めば、頭をぽんぽんと撫でられた。


「サンキュー。んじゃ、オレ任務行ってくるわ。」

『ベル!?』


何事もなかったかのように談話室から出て行こうとする彼を呼び止める。

手を頭の後ろで組んだまま振り返ったベルは、いつも通りのチシャネコスマイルで私の顔を再び赤くする言葉を口にした。


「オレも姫が好き。」










本当に価値のない命なんて無い。





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