未来の残像




『ベル…お願い、殺して――…』

『ごめんね。でも…もう、苦しいのイヤなの。』

『ありがとう、ベル。ずっと愛してる……。』







・・・・


「ハァ…ッハァ、ハァ、ハァ……また…かよ――…。」


夜毎、思い出される今は無き未来の出来事に魘される。

ミルフィオーレとの戦いで致命傷を負ったアイツは、ベッドの上で苦しみながら命をつなぎ止めるしか出来ない治療。
いや、治療とは言えない処置を拒み死を選んだ。

アイツの最期の望みは、オレの腕の中で看取られながら逝くことだった。




・・・

手の震えを隠しながら、アイツの命をつなぎ止めている器具の電源を落とす。

ベッドに腰掛け、やせ細ってしまったアイツの身体を抱き寄せて腕の中に閉じこめる。

頭を撫でながら長い髪を指で梳けば、アイツは嬉しそうに目を細めた。


『ありがとう、ベル。ずっと愛してる――…。』


浅い呼吸が途切れ始め、瞼が落ちる。


ピ――――――……


甲高い電子音が病室内に響きわたり、アイツの呼吸も心音も止まった。


「オレも姫のこと、ずっと愛してる。」


泣きたいはずなのに、なぜか涙が出てこない。

アイツと一緒にオレの心は死んでしまったのだろうか?

その方がいい。心だけでもアイツと逝きたい。そう思った。


徐々に硬く冷たくなっていくアイツを抱きしめ続ける。

そこから先は何も思い出せなかった。



・・・


「こんなの、王子らしくねぇーじゃん。」


前髪をくしゃりとかき上げてベッドから降りる。

冷蔵庫の中からミレナーレを取り出し、乾ききった喉を潤した。

今は無き未来に魘され続けているのは、この世界でも同じ事が起きるんじゃないかと怯えているからなんだろう。

幸い、オレとアイツはまだ出逢っていない。

このまま出逢わなければオレがアイツを失うことはない。

その方がいい。オレにとっても、アイツにとっても。


そう言い聞かせ続けているのに、心のどこかでアイツを探し求めているオレがいる。


「…姫、愛してる。」


したい事とするべき事は必ずしも同じとは限らない。

だけど、やっぱりオレは…










お前に逢いたい。






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