奪って

部屋の隅で膝を抱えて俯く。

風が部屋を吹き抜ける度、カーテンが舞い上がり開かれた窓からは星が瞬く夜空が見えた。




・・・


“綺麗な月だね”


月の見えない空を仰いで、あの時と同じ様に言ったキミの言葉が耳から離れない。

あの頃の私ならきっと見えてたのに、今の私には見えない。


“そっか。残念だな。”


愁いを帯びたキミの表情はあの頃のままなのに、私は…。


・・・


頬を伝う涙が膝を濡らしていく。

寂しい気持ちに押しつぶされそうで、膝を抱える手に力が籠もった。


「何してんだよ。」


音も気配もなく私の目の前に現れた彼を見上げる。


『取り残されたの。』

「は?」

『寂しさの中に取り残されてたみたい。』

彼を仰ぎ見れば、キレイな長い指で涙を拭ってくれた。


「姫は俺にどうして欲しい?お前の望むままに叶えてやるよ、お姫さま。」


口角を上げて笑う彼を見て気づく。

こんなに近くに“綺麗な月”があったのだと。


『…奪って。奪い尽くして、私のすべてをベルで満たしてよ。』


頬に置かれたままの手を引いて、ベルを引き寄せる。


「ししし、奪ってやるよ。姫はオレの、オレだけの姫だから。」


覆い被さってくる彼に身を任せ、頭と背中を壁に預ける。

心地よくかかる吐息に胸を振るわせながら、互いの唇で触れ合い始めた。

ムニムニと解くように啄まれてから、熱い舌が中へ滑り込む。

歯列をなぞり、舌を絡ませ強く吸い尽く。

ベルから与えられる深い口付けは、さっきまで私の中にあった不安を取り去っていった。










私を奪って。
今の私にはアナタしか見えないの。




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