そして誰もいなくなった


人の少ないカフェテラス、俯き唇を噛み締める彼女をよそに言い合いを続ける男が2人。

彼等が此処に集まってから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

アイスティーが入っているグラスの汗は乾き、氷も溶けきっていた。

金色の髪に、銀色に鈍く光るティアラを頭にのせ、前髪で目の隠れた男が徐に立ち上がり、彼女の足元にしゃがみ込み手を握った。


「なぁ、姫。そもそも、姫がオレに話があるから呼び出したんだよな…?」


今にも泣き出しそうな目をした彼女がしゃがみ込む男と一瞬目をあわせた。


「だからさ、オレはお前と話がしたい。」


顔をのぞき込みながら話す男の声は優しい。

そんな声を聞きながら、零れ落ちそうになる涙を止めるために姫は目を閉じていた。


「その話しよ。…な?」

『…ベ、ル……。』

「うん、言って?」


彼女は首を横に振り、口を閉ざした。

抑えきれない涙が、少しずつ流れ出す。


「泣くことねぇよ、言えって。言っちまえば楽になるし…オレは……お前に甘えてもらいたいんだよ。」


さっきよりも更に強く首を横に振る姫の噛み締めている唇にうっすら血が滲み出す。

頑なに口を閉ざす彼女の頬をベルは優しく撫で、伝う涙を指でぬぐい取った。


「姫、言って。お前の口から…な?」


そんな二人の様子を静かに見ていた男が、長い白銀の髪をかき上げ、ため息をひとつ吐いてから口を開いた。


「姫、言え。言わなきゃダメだろう?そのために此処に居るんだから。」

『…わ…わた、し……。』

「ベルにちゃんと言ってやれ。お前といることに疲れたから別れてくれって。」


――ガタンッ!!――


突然立ち上がった姫が座っていたイスが音を立てて倒れる。

涙で赤くなった目を開いて銀髪の男を見据えた。


『スクアーロの馬鹿!!黙ってよ!!言えるわけ…言えるわけないじゃん!!』


声を張り上げて怒り出す彼女に2人の男は一瞬驚きの色を見せた。


『だから…そっちに…話、行かないように…して、た、のに…っ。』


爪が食い込んでしまうんじゃないかと思うぐらい強くてを握りしめ、大粒の涙を流しながら話す姫。

彼女を見上げるベルの頬に涙がひとつ伝った。


「…ん、そっか。そーだよな…。」


ベルは立ち上がると姫をぎゅっと強く抱きしめた。


「苦しめててゴメン。姫、大好きだよ。スクアーロは大っ嫌いだけど、お前が幸せになれるならオレは…。」

『…ベル。』

「姫、愛してる。愛してるよ、心から。これだけは覚えてて。」


ベルは言い終えると、触れるだけのキスを姫の唇に落として去っていく。


『…ふ…、は…っ。』

遠ざかって行く彼の背中を見る彼女の口から切ない嗚咽が漏れ出す。


『私、サイテーだ…。』

「…姫。」

『スクアーロ、ごめん。私は、サイテーのサイテーな女だ。』


姫を抱き寄せようとしたスクアーロの手が宙を掻く。

駆け出す音と共に離れていく彼女の後ろ姿が彼の目に映った。


『ベル!待って!!』


姫の声にベルは足を止め振り向く。

彼女は真っ直ぐに彼の元へ駆けていった。


『私を置いてかないで!!』

「姫…!」


振り向いて待っていてくれるベルに姫は思いっきり抱き付く。
きつく抱き合う2人はそのまま人の行き交う街の中に消えていった。

そんな2人がいた場所を見つめながら、スクアーロは本日、何度目かも分からないため息を長く吐いた。


「ったく、世話が焼けるぜぇ。」


安堵と寂しさの混じった笑みを浮かべなが席を立ち、長い銀髪を翻して彼はその場を後にした。




夕暮れ時の涼しい風が吹き抜ける。

3人がいたあの場所には、倒れたイスと飲みかけのグラスが3つテーブルの上に置いてあるだけだった。






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