blood red
『つぅ…。』
書類整理をしていた手に痛みが走る。
見れば右手の親指に赤い線が走っていて、ジワジワと血が滲んでいた。
ぷっくりと溜まっていく紅はとても鮮やかで、なんとなく魅入ってしまう。
幾人もの人々を殺めて汚れてきた私の中にも、こんな綺麗な色彩が存在しているんだなと思った。
「どうしたんだよ?」
手が止まったまま、一向に作業が進まない私に気づいたベルは、私の肩に顎を乗せて尋ねてきた。
「あん?怪我したのかよ。」
『あー、うん。紙で切っちゃったみたい。』
傷口を舐めようとして、自然と赤く濡れた指を口元に運ぶ。
その指は私の舌が触れる前に、横から出てきた手に攫われ、ベルの口元へ移動させられた。
熱い彼の舌が傷口をなぞるように這い、にじみ出ていた紅をキレイに舐めとっていく。
『んッ…。』
ピリピリと走る痛みと彼のなまめかしい舌の動きに、私の口から吐息が漏れた。
「消毒してやってるだけなのに、感じちゃってんの?」
『ち、ちが…これはベルが…』
「オレが…何?」
口角を上げて笑うベルの表情に、鼓動がだんだん速くなる。
それと同時に、彼が私の血を舐めたということになぜか興奮を覚え、ゾクゾクと背筋が震えた。
『…お、美味しい?』
無意識に出た言葉に驚いて左手で自分の口を覆った。
そんな私の言葉と裏腹な行動に、ククッと咽を鳴らしてベルは笑う。
「ししし、旨いよ。姫の血の味クセになりそー。」
そう言うと、指にまた滲み溜まりだした紅を彼は舌で掬い取り、そのまま私の口の中へソレごと舌を侵入させた。
ベルの舌が咥内を蹂躙する度に鉄臭さが鼻を抜ける。
血の味と彼の熱で私の思考は朦朧とし始めた。
『ん…ふッ…。』
「ししッ。姫厭らしいー。」
離れていくベルの舌を追いかけるように、私の口は緩み、舌を覗かせている。
「もっと、王子とキスしたい?」
『うん、したい。ベル…キス、して。』
彼の首に腕を回しおねだりすれば、再び互いの唇が重なった。
血の味なんかとうにしなくなっているベルの舌に強く吸いつく。
それに応えるように絡む彼の舌はとても甘く、動きも巧みで、私の咥内はまた彼によって蹂躙し尽くされた。
・・・
貪るような激しいキスの余韻に惚ける私の耳元に、ベルはそっと口を寄せる。
「なぁ、血に酔っちゃった?」
“王子と同じじゃね?”と言うかのように、白い歯を見せて笑う彼に、私は“違う”と否定の言葉を口にした。
途端にベルの口角は下がり、口がへの字になる。
『血じゃなくて、ベルに酔ったの。』
「は?」
私の言葉に、への字だった口がぽかんと開いた。
『血の紅に、ベルが重なったの。だから…。それにね、私、ベルにしか酔えないよ。』
チュッと軽いリップ音を立てて、彼の頬に口づけを落とせば、開いてた彼の口はキレイな弧を描き、いつも通りのチシャネコスマイルに変わっていった。
その紅に君を重ねて酔いしれる。
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