果実
初めてアイツに会ったときから、本気で欲しいと思った。
例えるならアイツは果実。
口に味よく、目にも華やかで麗しい。
あの水々しく滑らかな肌から漂う、妖しくも官能的な甘い香りを抱いて、一晩だけでも眠りにつきたいと誰もが思うんじゃないかというぐらいの魅惑の女。
王子のオレがここまで惚れ込んでるのに、自分のモノにならないとかあり得ねーよ。
なんで、お前は初めて会ったときから此処の王様、ボスのモノなわけ?
手を伸ばそうにも、お前が居るところは高く過ぎて、手が届かねぇよ。
アイツの髪に口付けてから、耳元でそっと囁く。
「なぁ、姫。オレに堕ちろよ…。」
どんな表情をしてるから知りたくて、顔を覗き込んだ。
人当たりもよく、懐っこい私は誰からも好かれているように見えるでしょう?
恵まれた見目麗しいこの姿は、華麗に咲く花のように見えることでしょう?
でも、こんな私も、本当は汚れきっているの。
下げずまれ、非難され、逃げるようにして生きてきたの。
今の私からは想像出来ないことでしょう?
そんな私の世界が180度変わったのは彼のおかげ。
だから私は彼から離れることが出来ない。
たとえ彼と私の間に愛が無くても、私はザンザスの傍で彼を愛しているフリをしなくてはいけないのよ。
だから…
『桃の実は落ちたいけれど、枝が離してくれそうにないのです。ベル様に腕と度胸があるのなら、木の天辺まで行ってみては如何でしょう?』
だから私は、大好きな王子様に敢えて挑戦的で否定的な言葉を贈った。
見惚れてしまうような笑顔を浮かべて、小さく愛らしい桃色の唇から発せられた言葉は、はっきり言って辛辣だった。
なぁ、その言葉は本心から出た言葉?
それとも、オレがボスの手に掛かるのを防ぐための優しさ?
どっちにしたって、お前はオレのモノにはならないんだよな。
天上になる桃の実を、人間が食べることは許されない。
それはまさに禁断の果実。
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