それは優しさじゃない

『やっぱりこれかなぁ〜』

パステルピンク色のシルク地に白いレースとリボンを上品にあしらった、大人カワイイ下着を選びチェストから取り出した。

「いいんじゃね?王子そういうの好みだし。」

は?

後ろを向けば白い歯を見せて笑うベルがいた。

あれ?おかしいな。私、確かに鍵閉めたよね?それにここ私の部屋だし、普通ただの同僚が無断で入ってこないよね。なんでベルがいるの?

てか私、お風呂からあがったばかりでバスタオル一枚なんですけどぉぉぉ!!

「なぁ、着ないの?風呂上がりなんだろ?早く着替えなきゃ風邪ひくぜ。」

『ベルがいるから着替えられないんでしょ!早く出て行ってよ。』

私は下着を持っていた手を背中に隠し、ベルを威嚇して部屋から出るように促した。

「しし、それが王子に頼む態度かよ。」

『本当の王子さまなら人の部屋に無断で入ってきたりしないよ。』

「ふーん。姫はオレに王子として接して欲しいんだ?」

『そうだね。優しくしてほしいよ。だから…』

「じゃぁ、優しくしてやるよ。王子がソレ着せてやる。」

はい?何言っちゃってんの、この堕王子。
しれっととんでもないこと言ってるんですけど。

『バカじゃないの!?このッ、エロ王子!!』

「いいからソレさっさと貸せよ。着させてやる。」

手を伸ばしながらゆっくりと近づいてくるベル。
後ずさっていた私の背中はついに壁にくっついてしまい、逃げることができなくなってしまった。

ベルの手が私の頬に触れる。段々と距離を縮めて近づいてくる唇。
ヤバい、キスされる。そう思って私は目をギュッと堅く瞑った。

ごちんッ

『イッタァァイ!』

あろうことか、ベルは私の額に頭突きをしてきたのだ。

「ししし、な〜に期待してんだよ。」

そう言ってベルは私の手から下着を取り上げた。

「いいから脚あげろよ。」

ムリだ。下手に抵抗すると更に酷いことになりそうな気がする。
私は腹を括り、大人しくベルに着替えさせてもらうことにした。

スルリと脚にパンツが通される。下から上へとパンツが移動するのと一緒にベルの指が脚の側面を撫でる。

ナニコレ。脱がされるより恥ずかしいんだけど…。

「案外キレイなんだな。」

『な、何が?』

「脚。傷一つないし、暗殺業こなしてるやつの脚とは思えないぐらいキレイじゃん。」

ベルの視線が私の脚に注がれている。
恥ずかしいような、嬉しいような、なんとも表現しがたい感情が身体の奥から湧き上がってきた。

「なーにエロい顔してんの?」

『ちがッ、これは、その…なんでもない!』

「ふ〜ん?」

ベルはニヒルに笑いながら私のブラや服を着せていった。

着替えが終わっても、私の顔の赤さは退くことはなかった。

『ところで、ベルはどうして私の部屋にいたの?』

「あン?あー、そうだ。ボスが今すぐ報告書出せって言ってたのを伝えるために来てやったんだよ。その上、着替えまで手伝ってやるとか王子やっさしい〜」

赤かった顔から血の気が引き、急激に真っ青に変わる。

『〜つぅ!!なんでソレを早く言わないのよーッ!!』

机の上の報告書を掴むと一目散にボスの部屋へと全力疾走した。


王子の優しさは優しさじゃない!!


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