彼氏の特権


カチャ、カチャ…カシャンッーーー


『…っ、もう!!』


ぎこちない手つきでスプーンを使う手が震え、やっと掬えたリゾットごとスプーンがお皿に落ちていく。

食事を初めてから15分、彼女はまともにリゾットを口に運べていなかった。


「いい加減観念して俺にやらせろぉ。」

『イヤ!利き手じゃなくても食べれるもん!!それに、そんなに重傷じゃないん…』

「利き手を負傷して、生活に支障を来してる時点で重傷だろぉが。」


事実を言えば、姫は恨めしそうにじとーっとした目でを俺を見てきた。


「いいから、貸せ。」

『あっ。』


彼女の手からスプーンを奪い取り、リゾットを掬って口元に運んだ。


『…………。』

「食べねぇなら点滴だなぁ。」

『ーー〜っ。』


渋々口を開けて食べ始めた姫の頭を撫でる。


「いい子だぁ。」


子ども扱いしないでと目で訴えてくるが、上目遣いになっていて更に可愛さが増しただけだった。

食べ終わるタイミングを見計らいながら、もぐもぐと動く小さな口にスプーンを運ぶ。

上手い具合に口を開く姫は親からのエサを待つ雛鳥みたいで、父親になったような錯覚さえ感じた。


『ごちそうさま。』


両手を合わせて満足そうに微笑む彼女の口元に、さっきまで食べていたリゾットのソースがついていることに気づく。


『ん?スクアーロ?』

「動くなよ、姫。」


頬に手を添え、ソースを舐めとれば姫の顔はみるみる赤く染まっていった。


『な、ちょ、何してるのよ!』

「ソースがついてたからとってやっただけだろぉが。」

『そんなの自分で拭けるわよ!!』


必死に言い返してくる姫についさっきまで抱いていた気持ちとは違う感情を感じる。


あぁ、やっぱり俺は姫を…


『ちょっとスク!聞いてるの!?』

「あ゛?好きな女の世話を焼いただけだろ。」

『な゛ッ!!』

「いいからお前は黙って俺に世話されてろぉ。」


ニヒルに笑えば、顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせてる姫が目に映った。

金魚みたいなその口にキスをすれば、観念したかのように大人しく俺の腕におさまった。

『私はスクの恋人なんだからね。』

「う゛ぉおい、今更だなぁ。」


互いに顔を見合わせて笑い合えば、どちらともなく唇が重なっていった。






可愛い恋人の世話を焼けるのは、彼氏の特権。



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