愛しい手で
「殺せ。」
その言葉と共にザンザスから渡された資料にはあいつの写真が添付されていた。
最初から気付いていた。姫がヴァリアーの人間ではないことに。
分かっていた。いつかはこうなることも。
それでも、初めてあったときからずっと惹かれ続けていて、今もこれからも愛している。
・・・・・・・
「入るぜぇ。」
そう言ってドアを開ければ、いつもと変わらず優しく微笑む姫がいた。
『スクアーロ!』
俺の腰に腕を回し、ぎゅっと抱きついてきた姫からは桃のような甘い香りがしていた。
髪は少し濡れていて、頬がほんのり赤く染まっていた。
「いい匂いだなぁ゛。」
『ふふ、そうお?お風呂に入ったばっかりなの。』
首に顔を押しつけて匂いを嗅げば、くすぐったいと言わんばかりにあいつは身を捩った。
『最後だからね。最期までカワイイ私でいようと思って。』
「あぁ゛?」
『スクアーロとこうしていられるのも、私が息をしていられるのも今日が最後だから。』
「気付いてたのかぁ゛…」
『それはスクアーロもでしょう?』
「……。」
『そこにメモリーがはいってるから。』
姫の細い指が机の一番左上の引き出しを指した。
『…なんでこんな出逢いしかできなかったんだろうね。』
「なんでだろぉなぁ゛…。」
『スクアーロに出逢わなければ、私きっとこんな感情覚えずにすんだのになぁ…。』
「後悔してるのかぁ゛?」
『ううん、してないよ。だってこの想いは本物だから。』
姫は胸に手を当てて満面の笑みを俺に向けてきた。
『…だから、最期は愛しいその手で私を逝かせて?』
あいつは最期まで笑っていた。日だまりのように温かい、俺の大好きな笑顔で。
俺は徐々に冷たくなっていく姫の身体を、ただ力強く抱きしめることしかできなかった。
・・・・・
私のファミリーがもう既に存在していなかったと知った時、あなたはどんな顔をするのでしょう?
引き出しの中に入っているメモリーが空っぽだと分かった時、あなたはどんな顔をするのでしょう?
私があなたの手で死んだとき、あなたは何を思うのでしょう?
私はあなたに逢えて、あなたを愛せて、とても幸せでした。
『愛してる。』
だから、せめて愛しいその手で…
「愛してるぜぇ。」
だから、せめて俺のこの手で…。
避けられぬ終焉を迎えよう。
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