甘触
「スクアーロ様が好きです。」
はぁ…。なんで、よりにもよってこんな場面に出会してしまうのか。
自分の不運に涙出てくる。
「初めて会った時からずっと…」
そんなの私だって……
あぁ、もういい。聞きたくない。
気が付けば逃げるように走り出していた。
足音隠さずにかけたから、きっと気付かれただろう。
でも気にする事なんてない。スクアーロだって、私の事なんか何とも思ってないはずだから。
自分でそう思ったくせにチクリと胸が痛んだ。
水膜が瞳を覆い、視界がぼやけ出す。
『わ、私だって……』
左手で少し乱暴に目を擦って涙を拭ったけど視界は一向に晴れなかった。
『…スクアーロぉ…。』
好きな人の名前を呼びながら、ずるずると廊下にうずくまる。
私以外、ここには誰もいない。そう思っていたのに、
「呼んだかぁ?」
突然、上から声が降ってきて身体が硬直する。
「なに泣いてやがる。」
『泣いてない。』
「なら顔上げろ。」
『ヤダ。命令するな、カス鮫。』
こんな嫉妬に歪んだ顔見せたくなくて、可愛くない態度をとった。
「なぁ…」
『うるさい。あっち行け。』
「う゛ぉぉぉい!!聞けぇ!!!」
ふいに両手首を掴まれ、上に引っ張っり上げられる。
涙で汚れた顔がスクアーロの目の前に晒された。
なんだか色々と悔しくて、私はぎゅっときつく目を閉じた。
「姫、愛してるぜぇ…。」
予想外の愛の告白に、反射的に目が開いてしまう。
真剣なスクアーロの眼差しに息が詰まりそうになった。
「俺は…お前以外、目に映ってないぜぇ。」
ずっと欲しかった言葉を次々とくれるスクアーロ。
スクアーロの気持ちに応えたいのに声が上擦ってしまって言葉がうまくでない。
『わ、私もスクアーロが…ス、キ。ずっと…ずっと触れていたい。』
やっと絞り出せた言葉を聞いた彼は優しく微笑み、私の腰を引き寄せ腕の中に閉じ込めた。
スクアーロの規則正しい、でも少し早い鼓動が伝わる。
何とも言えない幸福感に包まれて、スクアーロの胸に頬をすり寄せた。
「姫にこうやって触れられない人生なんて、もう考えられねぇなぁ。」
それは私も同じだ。
あなたに触れられない人生なんて…
どちらともなく重なり合った唇に甘く酔いしれる気がした。
触れ合う唇、重なる吐息。
あなたに甘く触れていいのは私だけ。
そして、私に触れていいのもあなただけ。
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