愚者

「またやられたのか…」


痣と傷だらけな私を見て彼は眉間にしわを寄せた。

濃淡の痣は無数の花のように体全体に咲き、茨のような細かな火傷が手足に広がっている。


『仕方ないよ。私は生まれて来ちゃいけない子なんだから。』


へらりと笑って彼を見上げれば、眉間に刻まれたシワがさらに深くなった。


『ごめんね。』

「姫が謝ることじゃねぇ。それに、俺が好きで心配してるんだから気にするな。」


壊れ物を扱うかのように彼は優しく抱き寄せ、私を胸の中に閉じ込めた。

温かいその温もりに癒される。

心を殺し、痛みに堪えてきた私には十分すぎる彼の優しさに、渇き切っていたはずの涙が零れ落ちた。


「姫、俺と暮らさねぇかぁ?」

「え?」


彼の唐突な言葉に目を瞬かせる。


「お前の為なら何でもしてやるぜぇ。」


真剣な彼の眼差しに吸い込まれそうになった。

『でも、私…。』


そんな彼の目をずっと見ていると胸が締め付けられて息苦しくなる。
それが恐くなって思わず俯いた。


『私……ぁ。』


逸らした視線の先には腱を切られ歩くことが出来なくなり、やせ細った脚が見える。

痣と傷だらけの身体に、自分で動く事も出来ない脚。
彼と一緒にいたって迷惑をかけるしかできない。

それを実感してしまい、さっきとは違った涙が頬を伝った。


「姫、迷惑になるとか考えてんじゃねぇぞぉ。」


私の脚を労るように撫でながら彼は私に言い聞かせる。


「惚れた女の為なら何だってしてやりてぇと思うのは普通だろう?」

『スクアーロ…。』


優しい彼に甘えてしまいたい。だけど、それがどうしても出来ない。

だって私は、疎まれていると知っていながらも、私をこんな姿にし続ける兄からの愛を欲しているから。


『ありがとう、スクアーロ。でも…ごめんなさい。私、』

「それ以上…言うんじゃねぇ…。」

『…うん、ごめんなさい。』


離したくないと言わんばかりに、私を抱き締める彼の腕に力が籠もる。

白銀の髪が頬を撫で、肩に落ちる度に愛してると囁く彼の声が聞こえた。








スクアーロ。
貴方の優しく深い愛に応えられない愚かな私なんか忘れて、どうか幸せになってほしい。

夜の闇のように黒い髪と業火のように紅い瞳を持った兄が私を殺すその時まで、私は貴方の幸せを祈り続けると誓おう。

それが唯一、私が貴方に出来ることだから。










こんな私に優しくしてくれて、愛してくれてありがとう。



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