衝動


二人掛けのソファーに足を組んで乗せ、グラスを片手にくつろぐ。

そんな俺の腰の上に、床に寝ころんでいた姫は跨ってきた。


「どうしたぁ?」

『んー?なんとなく。』


両手を腹の上につき上半身を起こしたまま跨る彼女の姿は、愛の営みを連想させる。

自分の下半身に熱が集まるのを感じながら、姫の腰に腕を回した。


「誘ってるのかぁ?」

『どーだろうね。』


クスクスと妖しく不敵に笑う姫。

手前に倒れるように彼女の腰を撫でてやれば、突っ張っていた腕が緩み、ゆっくりと上半身が倒れてきた。

そのまま口に落ちてくると思っていた彼女の桃色の唇は、俺の首筋を上から下へと這う。

くすぐったいようなもどかしい感覚に欲求が高まる。

彼女の腰に置いておいた手を内太股に滑らせた。


「い゛っ!?」


鎖骨の辺りで止まった口が開き、見事なまでに尖った彼女の八重歯が無防備な肌に突き立てられた。

顔を上げてニヒルに笑う姫に呆然とする俺。

咬みつかれた肌は紅くなっていた。


「な゛っ!!」

『あーごめん、ごめん。痛かった?』


今度は咬みついた所に舌を這わせて舐め上げる。

そうしてそのまま俺の唇に口づけをした。


『スクアーロの肌って綺麗だよね。だからさ、無性に傷つけたくなるの。』

「はぁ゛?」

『自分のモノだってしるしを強く付けたくなる。キスマークなんかじゃ足りないのよ。』


また、鎖骨の辺りに顔を埋める姫にドキリとする。

彼女の髪を梳きながら、優しく頭を撫でた。


「すげぇ独占欲だなぁ。」

『うん。』

「また咬みつくつもりかぁ?」

『ダメ?』


上目遣いな彼女の口元に視線を向ければ、ふっくらとした唇の隙間から鋭い歯が見えた。

その八重歯に先ほどの痛みを思い出す。

ゾクゾクと快感にも似た感覚がせり上がって来るのを感じた。


「いいぜぇ。」


“咬まれたい”純粋にそう思った。

それと同時に姫を独占したいとも思った。


「そのかわり、ずっと俺の傍にいろ。離れようとしたら…」

『したら?』

「俺がお前に咬みついてやるぜぇ。」


そう耳元で囁いてから、姫の耳朶を甘噛みする。

びくりと肩を震わせた彼女が可愛くてギュッと抱きしめた。


『離れられるわけないよ。』


その言葉と供にまた甘い痛みが走った。





二人を支配するのは、咬みつきたい衝動にかられるほど、狂おしく愛おしいという感情。




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