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「天気もいいし、外でお茶しましょう。」

そう言われて、中庭でルッスと久々のお茶会が始まった。

今日のドルチェはズコット。
もちろん、ルッスの手作りだ。

丸いドーム型で、外側はシンプルだけど中はとってもリッチなケーキ。

切り分けると、中からナッツやチョコレートチップの入った生クリームがたっぷり顔を出す。

フォークですくって口に運べば、ラム酒の香りがきいた贅沢な味わいが口の中いっぱいに広がった。


『ルッスが作るドルチェはいつも完璧。最高に美味しいね。』

「あら〜、ありがとう。姫ちゃんが毎回淹れてくれる紅茶もとっても美味しいわよ。」


お茶会の時の紅茶を淹れるのは私の役目。

元々、紅茶が大好きで茶葉から淹れ方までこだわってるから、褒められるとすごく嬉しい。

料理上手のルッスに褒められると尚更嬉しくなった。


『本当!?実はそれ、オリジナルブレンドなの。』

「本当よ。なんだかベルちゃんみたいな紅茶ね。」

『えっ?』


ルッスの思いがけない言葉に固まってしまった。

ベルを意識してブレンドしたわけではない。
あくまで自分好みに調合した筈なのに。


「無意識だったみたいね。」


そんな私を見て、ルッスは少し呆れたように笑った。


「まだ、ベルちゃんに言ってないの?」

『い、言えないよ。』


ルッスは私の相談相手。
だからベルへの私の気持ちも分かっていてアドバイスをくれる。


「ベルちゃんにだけ素直になれないなんて、困った子ね。」

『う。だって…。』

「モタモタしてると他の子に取られちゃうわよ。ベルちゃんモテるんだから。」


ごもっともです。

ベルはモテる。非常によくモテる。

性格は破綻してるが王子だし、金髪で透き通るような肌に桃色の薄い唇、細いけどしっかりした肉体。

誰もが認めるイケメンだ。


『…素直になりたいんだよ。』


早く素直に気持ちを伝えたい。
自分だけの王子様になってほしい。

そう思ってるのに、いざベルを前にすると素直になれない私がいる。


私は眉間に皺を寄せ、素直になれない自分に少し苛立ちを覚えながら、ケーキをまた口に運んだ。


「あら、ベルちゃん。」


ふいにルッスの視線が私を通り越して、その先に向けられた。

できることなら今会いたくない人物が私の後方に丁度良くいらっしゃるみたいだ。


「なにしてんの?」

「お茶会よ。ベルちゃんも一緒にどうぉ?姫ちゃんが紅茶淹れてくれたのよ。」


お願いだ、断ってくれ。頭の中で必死に願ってた。


「ししし、飲む。」


しかし、そんな願いも虚しくベルは私の隣に腰を下ろした。

湯気立つ紅茶の入ったティーカップを口に運ぶベル。

その姿が絵画のように綺麗で、私はしばらく魅入っていた。


「旨いじゃん。」


口角を上げて、いつも通りのチシャネコスマイルが向けられて、私はなんだか恥ずかしくなった。

無意識にベルを連想させる紅茶をブレンドし、それをベル本人が飲んでるなんて。

遠回しに告白してるみたいで落ち着かなかった。


「なぁ、姫。コレやるよ。」


ベルは隊服のポケットに手を入れ、そこから青い小さな缶を取り出し私に差し出した。


『なに、コレ?』

「lady grayって言う茶葉。今度、茶会をするときはそれを淹れろよ。」

『は?なんでよ?』

「オレ、それ好きなんだよね。なんか姫みたいでさ。」


私みたいって?
どういう意味でベルは言ってるのだろう。
知りたい。でも聞けない。


「お前が淹れたら、もっと旨いかもな。」


それは褒められているんだろうか?
私はベルの顔を見て、目で問いかけてみた。


「わかんねぇの?お前が淹れる紅茶が一番好きってこと。」

『へっ!?』


好きと言う言葉に顔が熱くなるのを感じた。
違う、違う。そう言う意味じゃないから!
私は熱を振り払うかのように首をブンブンと横に振った。


「なーにしてんだか。」


そんな私を横目に、ベルはまた優雅に紅茶を口に運んでいた。

――カチンッ

ティーソーサーにカップを置く音がする。
それと同時に席を立つベル。


「ごちそうさん。」


紅茶を飲み終えたベルは左手をひらひらと振って、邸内に戻っていった。

そんな私達のやり取りを静かに見守っていたルッスからは「ごちそうさま」と言われた。

何がごちそうさまなんだろう?

ベルから受け取った青い紅茶缶を見つめながら、私は頬に集まった熱が冷めるのを待った。

後でこの紅茶を淹れてみよう。そう思いながら。




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