first

キィと軽く音を立て、談話室のドアが開いた。

ソファーに寝そべりながら読んでいた雑誌から目線をドアへと移動させると、そこには任務帰りのベルが立っていた。

隊服のあちらこちらに返り血であろう赤黒い染みがついている。

『なぁ〜んだ。ベルか。』

「なんだじゃねーよ。おかえりとか言えないわけ?」

『はいはい、おかえり。』

「可愛くねぇ。」


雑誌に視線を戻し、ページを捲りながらのおかえりは確かに可愛くない。

そんなこと分かってる。本当は笑顔でおかえりって言って、抱きつきたいところだ。

だけど出来ない。私はベルの同僚であって彼女じゃない。
それに私はベルに対して素直になれない。

私ってホント可愛くない。


『はぁ…。』


自分の可愛い気のなさに思わず洩れる溜め息。


「なに溜め息なんかついてんの?」

いつの間にか、向かいのソファーでベルがカップを片手に座っていた。

『ベルの今日の任務はSランクだって聞いて…』

「なに?心配した?」

私の顔を覗き込みながら、憎らしいくらい白い歯を見せ笑うベル。

『やっとその冗談みたいなティアラを見なくて済むようになるのかぁって期待してたのに…無事だったんだなぁって言う溜め息だよ。』

「お前、ホントに素直になんねぇよな。笑顔引きってるぜ。」

嫌みに聞こえるように笑顔で言ったつもりが笑えてなかったみたいだ。

バツが悪くなった私はベルから顔を背け、雑誌を読んでいる振りをし始めた。


本当は心配で心配で一日中上の空だった。
ベルに限って任務失敗なんて有り得ないことだけど、帰って来なかったらと思うと溜め息ばかりでてた。

そう言えたらどんなに楽か。

あぁ、素直になりたい。


「ったく。いつになったら素直になるんだか。」

カップをテーブルの上に置き、両腕を頭の後ろで組みながらベルはソファーの背もたれに少しのけぞった。

『てか、ベルはなんでわざわざ談話室に来たのよ。真っ直ぐ部屋に戻ればよかったじゃない。』

「あン?姫が居そうな気がしたから。お前の顔見ると元気出るんだよね、俺。」

サラッと言われた言葉に身体中の熱が顔に集まっていく。

私は口を金魚のようにパクパクさせて、やっとの思いで言葉を絞り出した。

『ば、バカじゃないの!?』


あーあーあー!!もう、私がバカ!馬鹿、馬鹿、馬鹿!!


きっと顔はリンゴのように真っ赤なってるだろうし、また可愛くない事言ってるし。

うわぁ、涙出てきた。


「ししし。そんじゃ、もう寝るわ。姫もソロソロ寝ろよ。」

ソファーから立ち上がったベルは、私の顔を見ずに手だけを伸ばし頭をポンポンと撫でると部屋から出て行った。



涙、見て見ぬ振りしてくれたんだ。

ベルの優しさに私はまた胸をきゅんとさせた。




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