Ultimo dono
2012/10/12 23:36
「ン。じゃ、行ってくる。」
『うん、いってらっしゃい。』
触れ合うだけのキスをしてから、いつも通り彼は部屋を出ていった。
“任務”と言って行くけど、ソレが“任務”じゃないことぐらい初めから分かっていた。
だけど、ずっと気付かないふりをして、笑顔でアナタを出迎え続けていたの。
だって、絶対にアナタは私の元に帰ってきてくれるから。
でも、もう限界みたい。
彼が部屋から去れば勝手に溢れ出す涙は私の心が限界だと物語っている証拠だった。
拭っても、拭っても止まらない涙に息が詰まりそうになる。
そんな生活を二年近く続けてきた。
だけど、そんな感情も今日でお終い。
「気持ちの整理はつきましたかー?」
間延びした声と共に現れた翡翠色の瞳を見て、思わず笑顔がこぼれる。
『うん、もう大丈夫。』
「それは良かったですー。ミーの方も上手くいったのでいつでも大丈夫ですよー。」
今頃アナタはブロンドの巻き髪に青い目をしたフランス人形みたいな綺麗な女の人とお楽しみの真っ最中。
前の私ならそんな事を考えるなんて心が引き裂かれるほど悲しくて無理だったけど、今はなんとも思わない。
寧ろ、私が用意した女で楽しんでいるのかと思うと彼が余りにも滑稽に思えて笑いを堪えるのが辛い。
『ねぇ、フラン。私ってサイテーかな?』
「そんなわけないじゃないですかー。寧ろサイコーですよー。」
『ありがとう。』
自分を肯定してくれる人がいるだけで、こんなにも強くなれるのだと実感する。
「さぁ、そろそろミーが仕掛けた毒が回ってきてる頃ですよー。行きましょー。」
『うん、行こう。』
彼のオリジナルナイフをジャケットに忍ばせフランと2人で部屋を出た。
彼が楽しんでいる場所へ向かうために。
優しい私はアナタが一番好きな行為をしている時に、アナタのお気に入りの玩具(ナイフ)で、アナタの一番好きな色に染めてあげることにしました。
私からの最後の贈り物、どうぞ受け取ってくださいね。
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