モノクロの世界
2012/08/15 19:00



『好き。好きなの。』


私の頭を撫でるアナタの大きな手を下に引っ張って頬を擦り寄せる。

手袋越しに伝わるアナタの体温が心地いい。

『アナタの一番になれなくてもいい。私はアナタが好き。』


伏せられていた目が開き、妖しく輝るシトリンが現れる。

顎の長さまで延びている黒髪を絡ませてから、彼という存在を確かめるように指で輪郭をなぞった。


もっと触れたい。


貪欲に彼を求める感情が溢れ出す。

軽く押しつけるように彼の口に唇で触れた。

肩を優しくつかまれ離される。

少し置かれた距離と表情に、彼が今から言おうとしていることに察しがついた。


「俺は…お前の気持ちに応えられない。」


耳に心地よい低い声で、愛おしいその口で語られた残酷な言葉。

こうなると分かっていた筈なのに、私の心が死んでいく。


『…うん……わかってるよ。』

「すまない。」


できるなら言わないで欲しかった。


『…幻騎士。』


遠ざかる彼の背中を見ながらそんな身勝手な事を思った。

















彼が微笑まない世界は色彩の無い世界。







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