昔公平と殴る蹴るの大喧嘩をしたことがある。理由は公平が私の大切にしていた色のついたガラスの小物入れを割ったからだ。…いや、割っただけならまだ良かったんだけど、公平は私に怒られるのが嫌で割れたガラスの破片を庭に埋めて隠したんだ。
普通なら、公平が口を割らない限り気づかないだろう。現に、公平は自分から何も言ってこなかった。だが、私はすぐに分かったのだ。公平が庭の木の下に穴を掘ってそこにガラスを埋めたことなんて。

公平を振り切って、土を掘ると割れたガラス片がそのまま埋まっていて。泥だらけになったそれを見て少し泣いた後、隣で気まずそうに地面を見ていた公平の頬を叩いた。すると公平は大泣きしながら私の頭を叩いた。そこから大喧嘩に発展し、騒ぎを聞きつけた両親がくるまでそれは続いた。




…私にはサイドエフェクトがある。相手の心を読む力だ。

便利な能力だと思うでしょう?でも、現実はそうじゃない。とても最悪な力だと私は思っている。
幼いころから、なんとなくだけど相手の思っていることが分かって、少し感覚を研ぎ澄ませば相手の心の声が聞こえることにも気づいた。そしてその力は、まだ小さかった私にも鋭利な刃物となって容赦なく襲いかかってきた。
友達だと思っていた子の本心、大人たちの汚い考え、自分が他人からどう思われているのか、全部が全部悪いものなわけではなかったけれど、それでも、幼い私の心には悪いものしか突き刺さらなかった。偽りの笑顔や言葉の裏に隠れているのは、悪意。どうにかなりそうだった。やがて、私は人と関わらない道を選んだ。そうすることが楽だと、理解したからだ。

唯一、家だけが落ち着ける場所で。自分を愛してくれている両親と、なんだかんだいって優しい兄がいるこの場所だけが私の居場所だった。
だけど四年前の近界民の襲撃で両親が死んだ。私の居場所がなくなり、空っぽになった。そして、ボーダーに入ると私に告げた公平に置いていかれないように、私もボーダーに入隊した。

街の平和なんて、ボーダーの仕事なんて正直どうでもよかった。公平がそばにいれば、それでよかった。
公平は私を受け入れてくれる。どんなに醜くて情けない私でも、必ず受け入れてくれるのだ。



ボーダーに入隊してからの私の毎日は、今までと大きく変わることはなかった。学校へも気が向いた時にしか行かず、あそこでの居場所はなくなる一方、行きづらくなる一方だったが私はそれでも構わなかった。……構わないと、思い込むしか道はなかった。

ボーダー内でも、私は自分のチームの隊長でさえ交流を図ろうとしなかった。私が素っ気のない態度を取ると、学校の人もボーダーの人も私を遠ざけ始める。これで、いいのだ。これで、自分が傷つかなくて済むんだ。


…だけど、傷つかなくて済むはずだったのに、心は傷ついていく一方だった。どうしたらいいのか分からなかった、というよりどうもする気が無かったのかもしれない。このまま殻の中に閉じこもって小さな世界で生きていくことを選ぼうとしていた。だが、そんな深い深い泥の中を歩いていた私を無理矢理、光の降り注ぐ地上に連れ出してくれた人が、いた。




20140403


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