空に手を伸ばす。退屈。退屈退屈たいくつ。溜息を吐いたあと遠くに浮かぶ雲を手でつかむフリをする。知っていたけど、当然掴めなくて。掴めないとわかっていたはずなのに、何故だか虚しくなって伸ばした手をおろした。そしてまた、ため息をつく。
学校はつまらない。噂話、好奇の目どれもどれも退屈でくだらない。
私の居場所はあそこじゃない。
あそこは、私の居場所じゃない。






「出水…?」


ふいに声をかけられて下を見ると、そこには学生服姿の奈良坂がいた。彼は私を訝しげに見て、それから何をしているのかと尋ねてきた。
ここは旧東三門、まあいわゆる放棄区域と呼ばれる場所だ。確かに、そんな場所に学生服のままで来ていたら怪しいと思われるのも無理はない。でも、それは奈良坂だって同じでしょ?そう返すと彼は何も言わずに私のいる場所まで上がってきた。


ここは小さな廃ビルの屋上。小さいころよくここに上って空を見上げてた。真っ青の空に流れる雲に乗って、どこか遠く知らない街まで旅をしてみたかった。小さくて大きな夢、私の大切な思い出だ。



「お前の家は、この辺りだったのか?」
「このビルの少し先の路地。今は更地だけどね」
「…そうか」
「奈良坂も、家は東三門だったと聞いてるけど」
「ああ。ここから少し離れた場所だ」


そう言って遠くを見る奈良坂の目は、寂しげに細められていた。彼も、4年前の近界民の襲撃により家を無くしたと聞いている。きっと、この放棄地帯に来た理由は私と同じだろう。


「ここね、私のお気に入りの場所で。4年前の襲撃の後も奇跡的に残って、…ここからの眺めはすっかり変わっちゃったのに、…でも変わらないものもあるんだ」
「……思い出か?」
「はは、奈良坂でもそういうこと言うんだ」
「……」
「いやだなぁ、そんなに怒らないでよ。当たりだよ当たり」
「…お前たち兄妹は本当に似ているな」


奈良坂が呆れたようにため息をついた。だけどそのため息が悪い意味でないことは私には分かった。



「今でも、たまにここに来るんだ。奪われたものは大きいけど、残ったものはそれ以上に大きいから」
「…俺は家を壊された恨みを晴らすためにボーダーに入隊した。…出水は、どうなんだ」
「私は公平が入隊したから、かな」
「……」
「意外だった?」
「いや、お前ならあり得そうな理由だと思った。だが、それだけなのか」



「(お前は、家以上のものを失っているんだろう?)」



奈良坂が言葉にしていない思いを読み取る。…確かに、私は4年前家だけではなく両親も失った。悲しかったけど、でもそれ以上に心が空っぽになって何も考えられなくなってしまったことを覚えている。近界民を恨んだ公平がボーダーに入隊すると私に打ち明けてきたとき、急に空っぽが萎んで恐怖が襲ってきた。驚く公平にしがみついて、私も連れて行ってと泣きついたのが昨日のことのようだ。



「恨みがないと言えば、うそになるけど。でもそれ以上に一人になりたくなかった」
「…そうか」
「……ところで奈良坂も学校さぼったの?意外」
「たまには良いだろう」
「うん、そうそう。たまには良いたまには良い」
「…お前はたまにどころではないだろう」
「はは、痛い所をつくね奈良坂」





20140331


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