「出水妹、この資料まとめといてくれ」
「……これ太刀川さんが頼まれたやつじゃないですか、なんで私がやらなくちゃいけないんですか阿呆なんですか阿呆なんですね」
「酷いな〜、ほらこの通り。よろしく頼んだ!」
「ちょ、太刀川さん!待て!……くそ、逃げられた!」


我らが隊長に押し付けられた何も書いていない報告書数枚を見てため息をつく。はあ、本当に太刀川さんには困ったものである。ふらふらふらふら毎度のことなので慣れてしまったが、そもそもこれは慣れてしまったらいけないことだと思う。…まあ、太刀川さん大学のレポートにも追われてるって話だし、…今日くらいはいいか。



「お前さ、それこの前も言ってたじゃん?」
「………それを言うな米屋」



太刀川さんから預かった資料を片づけていると米屋がやってきて私の隣に腰掛けた。それで他愛のない話をしつつ先ほどあったことを話すと米屋が苦笑いしながらそう言うので、私は何も言い返せないと頭を抱えた。
そう、太刀川さんに仕事を押し付けられたのは今日だけの話ではないのだ。この前も、その前もそのまた前も…。下手したら太刀川さんのデスクワークはすべて私に回ってきているのかもしれないくらいだ。



「それ、上に言った方がいいんじゃねーの?」
「んー…それはあんまり」
「え、お前にも仕事あるんじゃねーのか?」
「そりゃあ、あるけど」
「ふーん。ま、お前がそれでいいなら良いんじゃね」


そう言うと米屋は立ち上がりひらひらと手を振ってどこかへ行ってしまった。米屋はあっさりしているから付き合いやすい。
彼の後姿を見送った後、再び報告書に視線を落とす。

……何故、私がこんなにも太刀川さんに甘いのか。それは、…彼に申し訳ないと思っているからだ。
私がボーダーに入隊し公平に連れられ太刀川隊に入ったばかりの頃、太刀川さんと私の仲は良いものではなかった。理由は、私が太刀川さんのことを一切信用していなかったからだ。会話なんて仕事の話のみでプライベートな会話などはしない、そんな乾ききった仲だった。…まあ私がそんな態度をとっていたのは太刀川さんだけではなかったのだが、それについてはまた今度話すことにする。

最初は太刀川さんからこちらに踏み込んでくれようとしていたのだが、私がそれに応じず、太刀川さんも次第に私に対して腫物にでも触るかのような態度をとるようになってきた。まあ、色々あって太刀川さんとは普通の隊長隊員関係になれたのだが…。やはり、…昔のことで申し訳なく思ってしまうのは当然のことだ。



報告書を仕上げ、逃げていった太刀川さんを探そうと腰を浮かせた瞬間、誰かが入ってきた。その姿を確認すると私はすぐに腰を下ろして、入ってきた…太刀川さんをじっと見た。へらへらして、まったくもう。自然と眉が寄ってしまっていたらしく、太刀川さんが近づいてきて私の眉間をぐりぐりと指でさした。



「眉間に皺寄せてたら癖がついてそんな顔になるぞ」
「JKの顔に許可なく手で触れるなんて、セクハラで捕まりますよ」
「そりゃあ勘弁」
「…はい、報告書です。太刀川さん私の作業が終わるの見計らって来たんでしょ。ほんと、都合良いんだから。一応確認してくださいよ」
「お〜しっかり書けてるな、合格合格」
「殴りますよ」
「はは、勘弁勘弁」
「……」
「ところで出水妹、これの礼にラーメン奢るから兄貴呼んでロビー集合な」
「……なんで何もしてない公平まで」
「お前らどうせ一緒に帰るんだろ?ついでだついで」
「……仕方ないですね、呼んできます。太刀川さん、報告書ちゃんと提出してきてくださいよ、書き直しとか絶対しませんからね」
「はいはい」



太刀川さんを置いて部屋を出る。それから、大きくため息をついた。太刀川さん、ほんと不器用な人。私が、言えたものじゃないけど。
…私が太刀川さんの押し付けを断らない理由、それは私の…私たち兄妹のことを思ってくれているから。
私たちは4年前に近界民が攻め込んできたときに、両親を亡くした。それ以来兄妹二人で暮らしてきた。ボーダーの仕事で稼いでいるから、金銭的な意味ではそんなに不自由ではないが、それでも寂しいときは寂しい。
そんな私たちを心配して、太刀川さんはよく食事に連れて行ってくれていた。そして必ずと言ってよいほど奢ってくれるのだが、それが続き申し訳なくなった私は太刀川さんの好意を断った。


すると、太刀川さんなりに…考えてくれたのだろう。その次の日から、私に仕事を押し付けてそしてそのお礼として食事を奢ってくれるようになった。これは、太刀川さんなりの気遣いなのだ。…まあ、そのやり方が良いか悪いかは別として。…それでも、そんな不器用な気遣いが私はとても嬉しかったのだ。




「公平、太刀川さんがご飯連れてってくれるって」
「おごり?」
「うん」
「やり〜ぃ。タダ飯タダ飯」
「うるさい公平はしたない」



そして能天気に振舞っている公平も、私のいないところで太刀川さんに頭下げてお礼を言ってることなんて、私は知ってるんだ。不器用な私と太刀川さんの架け橋をしてくれているのは、いつだって公平なんだ。きっと太刀川さんも、私が太刀川さんの意図を理解していることは気づいていると思う。でもお互い何も言わない、何も言わずに受け入れる。
一度は壊れてしまっていた太刀川隊だけど、今はゆっくりとみんなで修復していっている。…そう、私たちはこれでいいんだ、これで。




…だけど、





「太刀川さん今お尻触りましたよね?がっつり触ったよね??」
「あ〜触ってない触ってない」
「酔ってるからってやっていいことと悪いことの区別くらいしてください!ってかしろ!」
「太刀川さんラーメン屋でセクハラなう」
「公平ツイッターすんな!太刀川さんを止めろ!」




毎日気も重くなります。はい、以上で太刀川隊の近況報告終わります。




20140330


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -