溜息をついた。隣にいる公平がちらりとこちらを見てきたので、もう一度大きくため息をつく。ほんと、今日は運が悪かったとしか言いようがない。


今日の夕方に、近々むこうの世界に遠征へ行くチームの合同ミーティングが行われる予定が入っていたため、太刀川隊の隊員である私は学校が終わったらすぐに本部に向かうつもりだった。
だが私はあまり学校が好きではなかったため、休みがちで出席日数もまあそれなりにやばく、それに痺れを切らした担任が帰ろうとしていた私を無理矢理連れ去り補習を受けさせたのだ。今日はボーダーでの用事があるから明日以降にしてくれないかと頼んだのだが、今日お前を見逃したらまた次も何かしら理由をつけられて逃げられたらそれはそれはたまったものじゃないと言われ、ミーティング開始の時間が迫っているにもかかわらず…といったところだ。何故、よりにもよって今日だったんだ。




当然、会議には遅れた私。一応学校から本部に連絡は入れてもらえていたらしい。私が到着すると隊長である太刀川さんは笑っただけですましてくれたけれど、今回は太刀川隊だけのミーティングではない。こってりと風間さんにしぼられ、今に至る。



「というかお前が真面目に学校行ってたら良かっただけの話だろ」
「…うるさい公平」
「……まだ学校、怖いのか?」
「…んー」


曖昧な返事で返す。隊服のボタンを外したり留めたりを繰り返し、答える気はないということを態度で表すと、公平はそれ以上は何も追及してこなかった。きっと察してくれたんだと思う。


「何時に帰る?」
「この前のやつの報告書を提出しなきゃいけねぇから…20時くらいか」
「わかった、じゃあここで待ってる。夕飯は外でいい?」
「ああ、じゃあまたあとで」

公平が休憩室から出て行った後、私は飲みかけだったみかんジュースを一気に飲み干す。そして自動販売機で迷わず本日二個目の紙パックみかんジュースを購入し再びソファに戻ると休憩室の扉が開いた。ちらりと視線を向けると、入ってきたのは、…!



「あ、名前さんお疲れ様です。防衛任務だったんですか?」
「と…時枝くん!ううん、今日はミーティングだったの」
「もしかして次の遠征の」
「うん、そうそれ。でも、……」
「……話、聞きますよ。オレ、もう後は帰るだけなんで」
「…いつもごめんね時枝くん」
「いえ、オレが聞くだけで先輩の気が晴れるなら、オレも嬉しいですし」
「ありがと。……あのね、」



私は今日のことを愚痴を盛大に混ぜながら時枝くんに話す。時枝くんはうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれて、たまに自分の意見を言ってくれたりして、私の狭い視界を広くしてくれるんだ。時枝くんはとても聞き上手だ。だから私だって、年下でしかも違う隊の子に愚痴を話せる。なんだって話せる。時枝くんだけなんだ。そう、時枝くんにしかこんなこと話せない、こんなに弱くて小さな自分を見せれない。



「はぁ、スッキリしちゃった。さすが時枝くん、聞き上手だね」
「それは良かったです」
「そうだ、時枝くんみかんジュース好きだったよね」


私は立ち上がると自動販売機の前まで移動し、みかんジュースを購入する。そしてそれを時枝くんに渡した。
お礼だよと言うと時枝くんは素直に受け取ってくれた。そうそう、変に遠慮されるよりそうやって素直に受け取ってくれる方が私は好きだ。きっと時枝くんはそれを分かってるからこそ、素直に受け取ってくれたんだと思う。

紙パックにストローを刺した時枝くんが、ふいに机の上に視線を向けた。そこには先ほどまで私が飲んでいたみかんジュースのパックが置いてある。


「名前さんもみかんジュース飲んでたんですね」
「え、あ、うん、ふと飲みたくなって」
「ああ、わかりますそれ。ここの自販機のやつ、美味しいですよね」
「うん…とても、好き」


みかんジュースは美味しい。けどね時枝くん、時枝くんにはなんだって話せるって言ったけど、でもそれは少し嘘なの。
時枝くんがこのみかんジュースを飲んでたから、私もこのみかんジュースを飲んでるの。時枝くんの好きなものだから、私も好きになったんだよ。私は、あの日から時枝くんのことが……


「名前さん、ジュースありがとうございました」
「私の方こそ色々聞いてもらってごめんね、ありがとう」
「いえ、オレも楽しかったです。ではそろそろ帰ります、また話しましょう」
「う、うん!ありがとう…!」
「失礼します」


時枝くんが休憩室から出ていったあとすぐに、公平が顔を出す。図ったようなタイミング、にやにや締まりのない顔をしている自分の片割れを睨みつけた。



「とっきー元気だった?」
「うるさい公平!」
「おーこわ。とっきーの前でそんな顔したら引かれるぞ〜」
「しないし!」
「はいはいはいはい」
「もう公平うざい!夕飯代出さない!てか一人で食べに行く!」
「あ〜悪かったって!謝るから、このとーり!」
「馬鹿。……帰ろ、公平」



これは、ボーダー本部所属A級1位太刀川隊隊員シューター、出水名前の日常を追った、そんな物語である。



20140331



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