マキアスとユーシス、面倒な二人が勝手に奥へ進んでいった後の話だ。
とりあえず何が起こるか分からないからと、男女別に分かれて旧校舎の探索へ向かう事になった。女子メンバーは、ダイアナとアリサ、それから青髪の凛々しい女子生徒と眼鏡で大人しそうな女子生徒の四人だ。他にも一人、Z組として集められた中に銀髪の小柄な女子生徒がいたのだが、彼女も先の二人と同様無言で奥へと進んでいったので、勝手な奴ばかりだなぁとダイアナはため息をつきつつ、他のメンバーと共に旧校舎のの探索へ向かった。


青髪の女子生徒、ラウラ・S・アルゼイドの持つ巨大な剣が魔物をなぎ払うと、そこに眼鏡の女子生徒ーエマ・ミルスティンが放ったアーツが降り注ぐ。

ラウラは帝国の南東に位置するレグラム出身の貴族で、彼女の身の丈程もある剣を軽々振り回せてしまえるほどの腕前を持つ。
一方エマは、魔導杖と呼ばれる導力器を巧みに操っていた。

この世界のエネルギー「導力」を使った導力器は私たちの暮らしにはなくてはならないものだ。通信機や部屋の明かり、列車、それに武器などにもその技術が用いられている。そんな一部に戦術オーブメントも含まれており、その技術を利用して導力魔法、私たちがアーツと呼ぶものを使う事が出来るのだ。

先程サラ教官から説明があった通り、入学案内と共に届いた第五世代戦術オーブメント、ARCUSと同期して初めてダイアナたちはアーツが使えるようになった。ARCUSにセットしてあるクオーツによって使用できるアーツの属性が異なるようで、エマはそれを用いて魔獣にダメージを与えていく。彼女は武術には縁がなかったと言っているが、かなりの戦力になっていた。


「ぅおらっ!」

ダイアナも負けじと昆虫型の魔獣を蹴り飛ばすと、魔獣壁に激突し動かなくなる。そこにアリサが導力弓で放った矢が綺麗に突き刺さり、魔獣は消滅した。


「やりましたね」
「ああ、そうだな。皆、怪我はないか?」
「ええ大丈夫よ、ラウラ。それにしても皆強いわね。最初は女子だけって少し不安だったけど、これなら安心だわ。まあ、ダイアナの戦い方に関しては少しだけ驚いたけど」
「アリサ、それって誉めてる?貶してる?」
「だって貴女、そんな見た目なのにビックリする位攻撃的じゃない。ギャップが激しすぎるわよ」
「あはは、でもとても頼りになりますよね」
「そうだな、さながらこのチームの切り込み隊長といったところか?」


地下を探索し始めてから、何体か魔獣に遭遇したがこのメンバーの力を合わせると難なく撃退する事ができた。火力のあるラウラに、魔導杖での魔法攻撃を得意とするエマ、攻撃に正確性のあるアリサに、機動力のあるダイアナ。みんな協調性のある子ばかりだった為、とてもスムーズに探索を進める事が出来たと思う。




出発してから暫く経った後。分かれ道から、入り口で分かれた男子チームが姿を見せた。アリサから痛い一撃を食らっていたリィンと呼ばれた青年に(彼の頬は未だに腫れており、痛々しい)、少しだけ会話をした紅茶色の髪の男の子、ダイアナに手を貸してくれた褐色の肌を持った青年、それに、先に行ったはずのマキアス・レーグニッツがいた。

リィンを見て分かりやすく顔をしかめたアリサに苦笑しつつ、マキアスの様子を伺う。ああ、戻ってきたんだ。少しは頭が冷えたのだろうか。


「よかった、みんな無事だったんだね。君も、大丈夫だった?さっき顔色が悪かったから心配してたんだ」
「え?う、うん。大丈夫」

何故かまたダイアナの心配をしてくれる紅茶色の髪の男子にぎこちない笑みを返す。何かずっと誤解されている気がする。それなら良かった、と柔らかく笑う彼に悪気はなさそうだったので何も言えなかった。むしろ君のほうこそ大丈夫だったのかという言葉はぐっと飲み込む。

「ふむ。そちらの彼も少しは頭が冷えたようだな?」
「ぐっ、おかげさまでね」

ラウラに窘められ居心地の悪そうにするマキアスを尻目に、自己紹介を提案する。名前を知らないのは不便だ。


「それもそうだな、では私から名乗らせてもらおう。ラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。以後、よろしく頼む」
「えっと、帝国の南東の外れにある場所だったっけ?」
「うん、湖のほとりにある古めかしい町だ。列車も一応通っているが、辺境と言っても過言ではないな」
「アルゼイド、そうか思い出したぞ!確か、レグラムを治めている子爵家のダイアナじゃなかったか!?」

マキアスがラウラの家名に過剰に反応したものだから、ダイアナは聞こえないようにため息をついた。やはり、マキアスは貴族そのものを嫌っているようだ。だが、ラウラにとって彼の反応は気持ちの良いものではないだろう。

「ああ、私の父がその子爵家の当主だが、何か問題でもあるのか?」
「い、いや、」
「ふむ、マキアスとやら。そなたの考え方はともかく、これまで女神に恥じるような生き方をしてきたつもりはないぞ?私も、たぶん私の父もな」

ラウラのきっぱりした答えに、貴族であるユーシスにあれだけ突っかかっていたマキアスも素直に彼女に謝罪をし、言葉を失ってしまっていた。さっぱりしてるなぁ、とラウラに感心しつつ、エマ、そしてアリサが自己紹介を終えた後、ダイアナも彼女らと同じように自己紹介をする。


「ダイアナ・ミール、ヘイムダル出身。よろしく」
「ヘイムダル?僕もだよ!僕の家はアルト通りなんだけど、君は?」
「ヴァンクール大通りの外れのほうだよ」
「そうなんだ!ヴァンクール大通りなら僕もよく買い物に行くよ。えへへ、もしかしたら何処かですれ違った事があるかもしれないね。あ、僕はエリオット・クレイグだよ。みんな、よろしくね」

エリオットと名乗った紅茶色の髪を持つ男子生徒はみんなに向かって微笑む。ずいぶんと社交的で人懐っこいなぁ、とダイアナは感心する。自分にはとてもじゃないが真似できそうにない。


「俺はガイウス・ウォーゼル。よろしく頼む」
「リィン・シュヴァルツァーだ」

マキアス以外の残りの二人も自己紹介をする。ガイウスは先ほどダイアナに手を貸してくれた褐色の肌を持つ男子生徒だ。ガイウスはどうやらノルド高原からの留学生らしい。
リィンは自己紹介した後にちらりとアリサの方を盗み見る。同じようにアリサを見ると、顔を思いきりしかめてそっぽ向く彼女の様子が見えたので、リィンに同情する。まったく、アリサもリィンが自分を助けようとした事くらい分かっているだろうに。素直じゃないなぁ。
ダイアナと同じくアリサとリィンの様子を伺っていたのだろう、エリオットが話題を逸らすようにわざとらしく手を叩く。

「そ、そういえばこれからどうしようか?せっかく合流したんだし、このまま一緒に行動する?」
「そうだな、そちらは女子だけだし安全のためにも――」
「いや、心配は無用だ。剣には多少自信がある、それに皆頼りになる腕を持っている。残りの二人を見つける為にも二手に分かれた方がいいだろう」
「そうですね、あの銀髪の女の子も見つかっていませんし」
「そういう事なら別行動で構わないだろう。お互い、出口を目指しつつ残りの二人も探していく、それで構わないか?」
「うん、異存はないぞ。――アリサ、エマ、ダイアナ。それでは行くとしようか」


ラウラの言葉に頷き、ダイアナは彼女の後に続いてひらりと身を翻す。とにかく早くここを出て、このオリエンテーリングにどんな意味があるのか、そしてこれから自分たちZ組が何をさせられるのかをあの教官に聞き出したかった。
だが、そんなダイアナたちをマキアスが引き留める。


「ま、待ってくれ!やはり女子だけでは心配だ、誰か一人くらい着いていった方がいいんじゃないか?女子の力だけでは危ないだろう」

マキアスが悪気があって言ったのではなく、むしろ心配して言った事は分かったが、その言い方に引っかかりを覚えたダイアナは男子チームを、マキアスの方を振り返り、そして眉を寄せた。そんなダイアナから凄みを感じ取ったマキアスの肩がびくりと揺れる。


「君、馬鹿にしてんの?ラウラも言ったけど、そういうの必要ないの」
「なっ、僕はただ心配で!」
「マキアスだっけ?さっきから思ってたけど君ってイチイチ面倒ね」
「なっ!!?」

顔を真っ赤にして怒りを顔に出したマキアスに背を向けて通路を進み始めるダイアナに、それに続くラウラ。アリサは呆れた様子でため息をついて二人を追いかける。唯一エマだけが戸惑った様子おろおろとした後、頭を下げて去っていった。


「なっ、何なんだあの女子は!」
「あ、あはは。思ったより強気な子なんだね」
「まあ心配するなって事だろう。俺たちも先を急ごう」
「ああ、そうだな」



20150703



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