交易町ケルディックはエレボニア帝国の東部の都市だ。クロイツェン本線と大陸横断鉄道の分岐点で、交易の町として発展してきた場所だ。昔から大穀倉地帯としても有名で、都市周辺には麦畑が広がっており毎週大市と呼ばれる市場では様々なものが商われている。

「特別実習か、何をさせられるんだろうな。士官学校である以上、厳しいものが想像できるけど」
「まあ、そうでなくてはわざわざ出向く甲斐がない。せいぜい楽しみにしておこう」
「とりあえず到着したら宿に立ち寄ろう。そこで実習内容を記した封筒を受け取る手筈のはずだ」

それにしても妙に準備が良すぎる。同じ事をアリサも感じていた様で顔を見合わせていると、通路の方からサラ教官が現れた。明らかにお金のかかっている特別実習。士官学院側もこのZ組に期待をしているとの事だ。

「その、どうしてここに?俺たちだけで実習地に向かうという話だったんじゃ?」
「んー、最初くらいは補足説明が必要かと思ってね。宿にチェックインするまでは付き合ってあげるわ」
「そ、それは助かりますけど」
「でも、どちらかというとB班の方が心配のような気が」
「あちらに同行した方が良かったのではないか?」

エリオットとラウラの言葉に、めんどくさそうだから険悪になりすぎてどうしようもなくなったら、その時はフォローに行くと笑い飛ばすサラ教官。そんな教官にみんな呆れた様子だったが、ケルディックへ自分たちと一緒に行って、さらにそこからパルムへ向かうという事だ。どう考えても大変な事だった。この学院で、ーー更にZ組の担任までするこの女性教官。おそらくただ者ではないのだろう。

徹夜をしたからと、話すだけ話して眠ってしまったサラ教官。暇つぶしにとエリオットが持ってきたゲームを広げ、列車の旅を楽しむ。車窓には秋播きのライ麦畑が広がり、ケルディックが近付いた。





ケルディックの宿酒場に到着すると、ここの女将さんのマゴットさんが出迎えてくれた。どうやらサラ教官と知り合いの様だ。ーーーサラ教官、ひょっとしてここの出身とか?到着して早々ビールを頼んで一杯やるつもりのサラ教官を後目に、マゴットさんの案内で宿屋二階奥の部屋へ通される。集団の尻尾にいたダイアナは、突然聞こえたアリサの大声になんだなんだと首を伸ばす。
案内された部屋にはベッドが5つ。ああ、なんだ。そういう事か。

中々部屋の中に入ろうとしないクラスメイトを追い越し、3つ並んだ一番奥のベッドの上に荷物を置き腰掛ける。

「わーい、はしっこいただき〜」
「ダイアナ、貴女なにも思わないの?全員同じ部屋なのよ?」
「別に気にならないけど」
「ぼ、僕たちも構わないけどーーー」

エリオットはアリサとラウラに視線を移しながら困った様に眉を寄せる。するとラウラもダイアナと同じ様に部屋の中へ入ってきた。

「ーーアリサ、ここは我慢すべきだろう。そなたも士官学院の生徒。それを忘れているのではないか?」
「そ、それは、」
「そもそも軍は男女区別なく寝食を共にする世界。ならば部屋を同じにするくらい、いずれ慣れる必要もあろう」
「うっーーー、分かった、分かりました!あなた達、不埒な真似は許さないわよ?エリオットはともかく、誰かさんには前科もあるし、いっそ寝る時に簀巻きにでもすればーー!」

解決したのではなかったのか。恐らくアリサ以外の全員が心の中で突っ込みを入れたことだろう。
その後マゴットさんから特別実習の内容が書いてある手紙を受け取り、5人で内容を確認した。そこには3つの依頼が記されており、全てケルディックの住民からの様だ。街道近くに現れた魔獣の退治のようないかにも士官学院への依頼らしい依頼から薬の材料の調達などの雑用まで様々だ。

実習期間は二日間。明日の夜にはトリスタへ戻るーー。それまでの間どんな風に時間を過ごすのか、話し合ってみることねとサラ教官は言った。この依頼をこなしていけば、この特別実習の目的を知ることが出来るのだろうか。






街中にある大市は賑わいをみせ、のんびりとした雰囲気ながらも人通りの多いケルディックの街。教会のジルベル教区長から依頼された薬の材料の調達を終えたダイアナたちは武具屋のサムスさんから頼まれた西の街道灯の交換に向かっていた。道中の魔獣を倒しながらライ麦畑に囲まれた街道を歩く。

アリサとラウラとは旧校舎地下で行動を共にしたり、学院生活でも何かと話す機会は多かったが後の二人とはこうして長い時間近くにいた事は殆どなかった。
エリオットは周りをよく気遣う事の出来る温厚な子で、ダイアナの周りにはいなかったタイプの男子だ。武器はエマと同じ魔導杖で戦闘ではアーツでの回復やサポートなど後方支援に徹してくれている。
リィンはなんだか損な役回りをさせられつつある様な気はするが真面目な頼れるクラスメイトだ。武器は太刀で、ラウラと彼の会話を小耳に挟んだ程度だが、なにか有名な型を使っているらしい。
前衛三人に後衛二人。なかなかバランスの取れたメンバーだ。


ルナリア自然公園が丁度正面に見える位置にある風車の街道灯は、確かに光が灯っていない。
早速交換を始めようとリィンが整備パネルへ近づくと、一カ所に止まるダイアナたちに気付いたのか魔獣が寄ってくるのが見えた。魔獣を遠ざける為に導力灯の光が使われている為魔獣が出やすくなっているという話は本当の様だ。

操作するリィンを守りながらダイアナは畑あらしに強烈な蹴りを食らわせる。そういえばケルディックに着いて初めてダイアナの荒々しい攻撃を間近で見たリィンとエリオットにとても驚かれた。そんなに外見とのギャップが激しいのだろうか。ーーーまあ確かに学院に入るからといわゆるデビューはしてみたのだけど。ここまで他人に驚かれるとは思っていなかったダイアナは、少しだけ貯まった不満を魔獣相手に発散させる。


「きゃっ!」
「だ、大丈夫?アリサ」

畑あらしの攻撃を間一髪避けたアリサにエリオットが声をかける。ダイアナはちらりとリィンを見て、顔をしかめる。サムスさんの言ったパネルの解除コードを覚えていないのだろうか。ラウラが大剣で一匹倒すが、畑あらしは次から次へと集まってくる。


「リィン、466515だよ!」
「あ、ああ、すまない」

解除コードを入力するとパネルが開き、ようやっと交換作業を行う事が出来た。街頭灯が灯った事により魔獣もこちらを避ける様に周囲に現れなくなる。


「それにしてもリィン。結構手こずったんじゃない?」
「ああ、解除コードをダイアナが教えてくれていなかったらもっと時間がかかっていたな、助かったよ」
「まあ焦るような状況だったし仕方ないよ。とりあえず一端街へ戻ってお昼にしない?ちょっと疲れちゃった」
「そうね、せっかくだからケルディックの有名なものが食べたいわ」
「ライ麦のビール?」
「それアウトだからな」



20180316



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