「というワケで、今からケルディックに向かうって流れ」
「成る程ね、それが君たちに課せられた特別なカリキュラムの正体という訳か」

ケネスがうんうんと頷きながら釣り糸を回収するその横で、ダイアナは毛先をくるくるといじった。魚が跳ねる音がして、キラキラと水面が朝日に輝く。
ダイアナは先日の実技テストの際発覚した、特科クラスZ組の特別な授業内容について部長へ報告をしていた。足元には昨日急いで用意したボストンバック。まさか泊まりがけの授業だとは。


「実習内容はさておき、帝国各地へ行けるなんて面白そうじゃないか」
「君は釣りがしたいだけでしょう」
「ふふ、ケルディックで釣れる魚でも教えてあげようか」
「残念だけど釣りをしてる時間はなさそうだから」
「そうか、それは残念だ」

ケネスがわざとらしく溜息をついたので、ダイアナも同じように溜息をついた。
これからダイアナたち特科クラスZ組は二班に分かれ、特別実習を行う為郊外の街へ向かう。
ダイアナはクロスベル行きの大陸横断鉄道を使ってトリスタから約一時間程行った場所にある貿易地、ケルディックへ向かう事になっていた。一緒に行くA班のメンバーはリィン、アリサ、エリオット、ラウラ。ここに関してはサラ教官へ感謝以外の何者でもなかった。B班はメンバーからして問題が起きる事が確実なので、本当に本当に良かった。


「それにしても泊まりがけの実習か。学院は君たちになにを求めているんだろうね」
「さあ。用意される課題っていうのも現地に着いてからの発表みたいだし」
「まあ気をつけて行ってきなよ」
「ん、分かってる。――あれ、?」

ケネスとの話にすっかり夢中になっていたのだが、ふと水辺から街の方へ視線を移すと、よく知ったクラスメイトの姿が見えた。彼―――エリオットはダイアナと目が合うと、何故かビックリしたように身をすくめる。


「あ、えっと、僕その、集合時間過ぎてるから、」
「ああ、迎えに来てくれたの?ごめん、時間見てなかった。それじゃあケネス、そういう訳だから」
「うん、いってらっしゃい。帰ってきたらおみやげ話、聴かせてくれよ?」
「はいはい。いってきます」

どうやら集合時間になっても姿が見えないダイアナを呼びに来てくれたらしい。きっとアリサあたりにでも頼まれたのだろう。エリオットには申し訳ない事をしてしまった。ダイアナはケネスにひらりと手を振り、エリオットに駆け寄り、そのまま駅へ向かう。すると、エリオットが申し訳なさそうに、それから何とも言いづらそうに切り出した。


「ごめん、邪魔しちゃったよね?」
「え?」
「その、貴族クラスの人と仲良さそうに話していたから」
「ああ、別に大した事話してないし、気にしなくてもいいよ」
「仲、良いんだね」
「うーん、まあ毎日話す仲ではあるけど」
「そ、そうなんだ」


沈黙。共通の話題があまりない為仕方ない事だ。ダイアナが少しだけ気まずさを感じていると、微妙な空気を察知したのだろうエリオットがそういえば、と切り出した。


「えっと、釣りのクラブに入ったんだってね。リィンから聞いたよ。さっきのも活動の一環?」
「うん、釣皇倶楽部。さっきの貴族生徒が部長なんだけど、さっきのは、うーん、まあ活動の一環といえば活動の一環かも」
「そうなんだ。僕も小さい頃は父さんとよく川釣りに行ったなぁ。それにしてもクラブに入るくらいだし、釣りは昔から好きなの?」
「ううん、トールズに来て初めてやった」
「そうだったんだね!ふふ、それにしてもなんだか懐かしいなぁ。久しぶりにやってみたいよ」
「ケネスに頼めば喜んで道具貸してくれるよ」
「レイクロード君だっけ?毎朝釣りしてるよね。熱心だなぁ」

今度話しかけてみようかな、と感心したように頷いているエリオットに、やっぱりコミュニケーション能力が高いなぁと感心する。柔らかい口調で、穏やかな笑顔で、誰にでも親切に、なんて自分には絶対に出来ない事だ。
そんなこんなでトリスタ駅へと到着し、アリサに二言三言小言を言われる。エリオットやリィンがそんなアリサをどうどうと宥めてくれるが、――ん?アリサとリィンの距離感に少しだけ違和感を感じる。もしかして。


「ああ、君らやっと仲直りしたんだね」
「だ、だから別に喧嘩してたってワケじゃ、」
「はは、ダイアナも心配かけてすまなかったな」
「いやぁ、ほんと良かったよ。アリサってばずっと言ってたもんね、出来るだけ早く謝りたい〜って「ちょっとダイアナ!!!ラウラと同じ事言わないで頂戴!」

どうやら同じネタでラウラにもからかわれた様で。アリサの大声と皆の笑い声で盛り上がっていたトリスタ駅構内に、パルムへ向かうB班の面々が姿を現した。
紡績町パルムは帝国南部、サザーラント州の小都市で紡績業で栄える街だ。セントアーク方面行きの列車の終点でもある為、朝一で出発したとしても、トリスタからは夕方頃に到着の見込みとの事だった。


「それにしてもーーー、」

リィンがこちらに近寄ってきてくれたエマたちの後ろを見ながら、苦笑いする。ユーシスとマキアスが表情を堅くし、互いに背を向け合っていた。彼らの態度に呆れながらため息をつくのも、もはや日常の一部と化している気がする。
この二人と二日間も共に過ごさないといけないB班のみんなに女神のご加護をーーー。
帝都行きの旅客列車の到着のアナウンスと共に改札をくぐる面々を不安そうに見つめながら、エリオットが息をこぼす。

「う、うーん、大丈夫かな?」
「委員長とガイウスがいれば滅多な事にはならないだろう。フィーの方は、よく分からないな」
「まあ、ちょっと独特だけど面倒を起こす子じゃないわ」
「我らも我らで気を引き締めていくとしよう」

ラウラの言葉に頷きあい、ダイアナたちはB班と同じく改札をくぐったのだった。



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