朝食を食べた後にあくびをしながら窓の外を見ると、ちょうど通りかかった男の人と目が合いました。名前が小さく会釈すると、彼は大きく開けた口をゆっくりと閉じ、そしてキリリと眉を吊り上げます。そのすぐ後に窓の端から端へさっと視線を動かしました。そんな彼の様子に名前が疑問符を浮かべていると、その人は窓枠外へ出ていってしまったものだから、名前は頭の上にさらに疑問符を並べます。すると、ガンガンと玄関のドアが音を立てます。この古い古い家にはチャイムがありませんので、家に来たお客さんはこうして戸を何度か叩くのです。はーいと返事をして名前が横開きの戸を開くと、そこにいたのは先ほど窓越しに目が合った彼でした。


「ええっと、」
「カーテンをつけていないのは女性としてどうなんですか!」

怒鳴られました。呆気にとられている名前を無視して、目の前にいるこの彼は更に説教を続けます。彼の名前は能勢久作。近所で商店を営んでいる彼に半ば引っ張られ「商店」と大きく書かれた看板のかかったお店の前に連れてこられました。名前の背中をぐいぐいと押し商店の中に押し込んだ能勢さんは呆気にとられている名前には目もくれず奥の棚をごそごそと漁ると、鮮やかな色の布きれをいくつか取り出し名前の前に並べました。
名前が首を傾げていると、能勢さんは大きくわざとらしくため息を吐いたあとに「この中で好きな色は?」と問いかけます。能勢さんが何を言いたいのかは分かりませんでしたが、名前はいくつかある中の一つ、爽やかな水色を指さしました。すると能勢さんはその水色の布以外をもと合った場所に戻します。そのあと彼はメジャーを取り出し水色の布を測った後裁断し始めました。ミシンまで取り出し、てきぱきと作業を続ける能勢さんに名前は思わず声をかけました。


「えっと、あの、能勢さん?何をされているんですか?」
「…女性の一人暮らしなんですから、もっと危機感を持ったほうが良いですよ」
「あ、はい、すみません」
「世の中良い人ばかりじゃありませんからね、この町だって、」
「?」

能勢さんは短く言葉を切った後、布から手を放して再び棚を漁ります。そこから白い棒を取り出すと、布と合わせてそしてうんうんと満足そうに頷きました。


「とにかく、これ」

能勢さんが立ち上がり布を広げます。すると、どうでしょう。白い棒を通された水色の布はカーテンになりました。わあ、と名前が声を上げると能勢さんは名前に水色の小さなカーテンを押し付けます。


「、えっと?」
「差し上げます、家に帰ったらきちんと窓にかけてくださいね」
「でも、良いんですか?」
「…僕からの引っ越し祝いとでも思ってください」
「ありがとうございます、能勢さん」


能勢さんにいただいたカーテンを窓にかけると、サイズはきっちりとぴったしで名前は水色の綺麗なカーテンを見てうんうんと満足気に頷きます。能勢さんはなんて面倒見の良い方なのだろうか。とても幸せな気分になりました。その浮ついた気分のまま、名前は先日富松さんに聞いた「良い酒を出す焼き鳥屋」へ足を運んでみることにしました。







「いらっしゃいませ〜」

がらがらと音を立ててドアを開けると、お店の中から柔らかい声が飛んできました。名前が中を覗くと金髪のお兄さんがにこにこと愛想よく笑顔を向けてくれています。カウンターの中にはやたらとキラキラしら男性が二人、焼き鳥を焼いていました。金髪のお兄さんに案内されてカウンターの席に着くと、メニューが差し出されます。
メニューに目を通す名前でしたが、そこに書いてある内容に首を傾げます。考えても答えが出てこなかったので、お水を持ってきてくれた金髪のお兄さんに聞いてみることにしました。


「あの、なんで全て二つずつ書いてあるんですか?」

そう、何故かこのメニュー表には二つずつ、書いてあるのです。「一級つくね130ゼニ 絶品つくね140ゼニ」「一級ねぎま120ゼニ 絶品ねぎま100ゼニ」「一級かわ110ゼニ 絶品かわ100ゼニ」エトセトラエトセトラ。お酒以外の商品が、何故か一級と絶品の二つずつ記載されていたのです。名前の質問に、金髪のお兄さんが少しだけ困ったような顔をして、カウンターの中の二人を見ました。名前も同じようにカウンターの中の二人を見ると、少しだけ眉毛の特徴的な、美しい顔をした男の店員さんが気取った口調で話し始めました。


「お客様、こらちの一級と書かれた焼き鳥はすべてこの鶴亀一美しいと評判の平滝夜叉丸が丹精込めて焼いた超!美味しい!焼き鳥ですよ」
「だぁれが鶴亀一美しいんだこのバカ!それよりお客様、鶴亀のアイドルと言われているこの田村三木ヱ門の絶品焼き鳥のほうがオススメです!」
「何がオススメだ!お前の焼き鳥は全部焦げてるじゃないか!」
「焦げてなどいない!そういうお前の焼き鳥こそちゃんと火が通ってるのか疑いたくなるほど焼きあとがついていないではないか!」
「それはお前の焼き鳥が焦げすぎてるんだ!」
「なんだと!?」


ええっと、と名前は言葉に詰まりますが、カウンターの中にいる平さんと田村さんの良い争いは収まる様子がありません。助けを求めるように視線を金髪のお兄さんの方に向けると、彼も彼で少し困ったように笑みを浮かべていました。

「すみません、一度こうなっちゃうと誰にも止められないんだ」
「あらら」
「…もしかしてお客さん、少し前に越してきた子?」
「あ、はい。鶴亀三丁目に越してきた名前といいます」
「やっぱりそうなんだぁ。僕は斉藤タカ丸、この居酒屋で出してるお酒を仕入れたりしてるんだ」
「斉藤さんが選んでるんですね!実は私、お風呂屋の富松さんから美味しいお酒を出してくれるお店があるって聞いて来たんです」
「えっ富松くんが?そうなんだ〜嬉しいなぁ。じゃあ……」


斉藤さんはそう言うとお店の奥にあるお酒の並んだ棚から一本の便を取り出して、透明なグラスを名前の目の前に置きました。名前が首を傾げていると斉藤さんは人懐っこい笑みを浮かべながらグラスにお酒を注ぎます。

「これ、僕の一番のおすすめなんだ。名前ちゃんも気に入ってくれたらいいなぁ」
「えっと、」
「僕からの引っ越しのお祝い。遠慮せずに飲んでね。嬉しかったんだ、僕のお酒が目当てって聞いて」
「ありがとうございます、斉藤さん」
「タカ丸でいいよ」

斉藤さんに出してもらったお酒はとても美味しいです。彼の優しさにほっこりとしながら、名前は未だに口喧嘩を続けるカウンターの中の二人に視線を移します。う〜ん、お酒に合う焼き鳥が欲しい所です。


「あの、一級ねぎまと絶品ねぎまを一本ずつお願いしても良いですか?」

名前がカウンターの中の二人に話しかけると、お二人の言い争いはピタリと止まり、思わず見惚れてしまうような美しい笑顔を名前に向けました。「只今!」二人同時に返事をし、それから顔を合わせて睨みあった後、焼き鳥を焼きはじめました。そんな二人の様子に苦笑する斉藤さんは、二杯目のお酒を名前のグラスに注いでくれます。


「いいか、三木ヱ門。名前さんは私の焼く焼き鳥が食べたかったんだ。お前のはついでに頼んだにすぎん」
「それはこっちのセリフだ滝夜叉丸!お前のがついでだ!名前さんはお前だけが頼まれないのはかわいそうに思ったから、滝夜叉丸の激マズ焼き鳥なんかもついでに注文されたんだ!」
「そんなわけないだろう!お前より焼き鳥を焼くのが上手いのはこの私だ!」
「いいや私だ!」
「私だ!」
「ごめんね名前ちゃん、」
「いえいえ(お酒美味い)」



20140807


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