鶴亀町の朝。眩しい太陽がカーテンのない窓から差し込んできて名前をしっかりと起こしてくれます。寝癖のついた髪もそのままに、のろのろと立ちあがった名前は新聞を取りに玄関を出ました。すると家の前に箒を持った男の人がいました。思わず「あ、」と声を漏らしてしまいます。彼の方も名前が家から出てきたのに気付いて、同じように「あ、」と漏らします。
いち早く我に返った名前は男の人に頭を下げ、自己紹介をします。


「あの、先日ここに引っ越してきた名前と言います。よろしくお願いします」
「か、川西左近です。…よろしくお願いします」
「お掃除、ですか?」
「そ、掃除してたら悪い?」
「いえ、悪くないですけど…」
「、………」
「………」
「い、忙しいんで失礼します!」
「あっ、はい。さよなら」

なんともいえない微妙な表情をした川西さんは箒をぎゅっと握りしめると足早にこの場を後にしました。川西さんは少し気難しそうです。仲良くなれるかしら。ましてやチュウまでこぎつける事が出来るでしょうか。…ああ、そうでした。すっかり忘れていたわけではありませんが、お店を開くためにはチュウをしなければならないのです。昨日仲良くなった富松さんとも、先ほどの川西さんとも、今はまだ出会っていない鶴亀の人々みんなとチュウをしなければなりません。ガーンと頭にタライが落ちてきたような音が響きます。憂欝でため息を吐きだします。これから一体どうなるのでしょうか。




とりあえずこの街のことを詳しく知らねばなりません。名前は交番へ向かうことにしました。
交番にいたのは名前とも歳の近い真面目そうな浦風藤内さんという巡査さんです。にっこりと優しげに笑い、名前に鶴亀町の地図をプレゼントしてくれました。

「にしても女の子一人で大変だね、何か困ったことがあったらいつでも言ってね」
「なにかあったら交番に飛び込むよ」
「あはは、じゃあ女の子が交番に飛び込んできたときの予習をしておかないとね」
「予習?」
「うん、予習。ところで名前さん、そこの掲示板に目を通しておいて。鶴亀での決まりとか色々書いてあるから。これ」

浦風さんが手に持っていた黒いファイルを開きます。そこに書かれていたのは名前の顔のイラストと名前、そして大きな枠が三つ。これは何なのでしょうか?
すっと交番のすぐ後ろにある掲示板を覗くと、こう書いてありました。


『1、ハダカ禁止 2、暴力禁止 3、人の物を盗むの禁止』


「名前さんの犯罪スタンプはゼロ個だね。犯罪スタンプがサン個たまると墓場行きだから気を付けて」
「…」


恐らく、聞き間違えでしょう。







浦風さんと分かれた名前は家に向かってゆっくりと歩いていました。すると、ずでーんという音と共にたくさんの白い袋が宙を舞っています。驚きつつよくよく見てみると、淡い紫色の髪をした白衣の男の人が道端に倒れこんでいます。これはいけません。名前は急いで彼に駆け寄ります。


「大丈夫ですか?」
「あ、はい…よくあることなんで、」
「これは、お薬ですか?早く拾わないと大変ですね、お手伝いします」


道端に落ちた薬の袋を拾い終えた名前は、白衣の男の人にそれを全て渡します。彼は照れくさそうに頬を掻きながらそれを受け取りました。


「すみません、わざわざ手伝っていただいて本当にありがとうございました…」
「いえ、困っているときはお互い様ですよ」
「あはは、ありがとうございます。…見ない顔ですね、もしかして先日引っ越してきた方ですか?」
「あ、はい。名前といいます。あなたは…鶴亀町のお医者さんですか?」
「はい。そこの医院の院長の三反田数馬といいます。…ふぁ、…あはは、すみません、少し寝不足気味で、」
「大丈夫ですか?寝不足気味だからこけてしまったのかもしれませんね」
「いや、多分それは不運のせい…、いや、なんでもないです気にしないでください。じゃあ僕は医院に帰りますね、何かあったらいつでも来てください」
「はい、三反田先生もご自愛くださいね」


へらりと笑った三反田さんはふらふらと薬を抱えて三反田医院へと入っていきました。寝不足、きっと忙しい毎日を送っている方なのでしょう。三反田さんに迷惑を掛けないように、健康でいようと決意しました。



20140724


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