遺跡船には若い女性の郵便屋がいる。底抜けに明るい彼女はウェルテスの人気者で、彼女のことを知らない者はこの街にはいないだろう。
待ちあわせの定番である噴水広場に着き噴水の端に腰掛けている彼女の名前を呼ぶと、彼女は俺の姿を確認して立ち上がる。そしてふわりと音もなくこちらにやってきた。


「ウィル、こんにちは!お仕事の依頼かな?」
「ああ、こんにちは。早速だがこれを頼みたい」
「ふむふむ、ジェイ宛てだね。了解〜」

彼女はいつも決まった時間に噴水広場にいて、その時間に彼女へ手紙を渡すと遺跡船の中ならどこへでも手紙を届けてくれる。彼女が遺跡船へやってきてからはや数年…今までは手紙は手渡しするしかなかったため、街の人はみんな彼女に感謝していた。
そんな彼女はあの情報屋、不可視のジェイへの唯一の連絡手段でもある。今日俺が彼女のもとを訪れたのも、それが理由だった。

「返事はいつ頃になりそうだ?」
「そうだなぁ、すぐにでも返事をくれると思うよ」
「すぐに?ジェイはウェルテスに住んでいるのか?」
「ん〜内緒。とりあえず少ししたらまた噴水広場に来てほしいな」

彼女はそう言うと時計を確認した後、傍に置いていた手紙の入ったバッグを腰に下げる。


「じゃあね〜」

何とも軽い調子でひらりと手を振り、噴水広場から立ち去っていく。始終笑顔でなんだか気が抜けてしまった。とりあえず、一旦家に戻ることにする。











「はい、ジェイ」
「どうも、ご苦労さま」


路地裏までやってきた郵便屋…名前は後ろを振り返る。そこにいたのは、小柄な少年…不可視のジェイ。名前は突然現れたジェイに驚くことなく、先ほどウィルから預かった手紙を渡した。
ジェイはその手紙にさっと目を通すと、一緒に手紙を覗き込んでいた名前を見やる。


「私も、何かお仕事手伝う?」
「噴水広場に行って、ウィルさんたちがやってきたら内海港へ向かうよう伝えてくれる?」
「それだけでいいの?」
「ああ、後はいつも通り自分の仕事をして。ああそうだ、仕事が終わるころにポッポが潜水艇で迎えに行くって言ってたよ」
「潜水艇!やったー!」
「じゃあぼくは仕事に行くから」
「うん、行ってらっしゃいジェイ!」
「ああ行ってきます、名前」


ジェイを見送った名前は路地裏から飛び出す。日の光が彼女のキラキラとした表情をよりいっそう輝かせた。
舞うように道をかけていく彼女の腰から下げたバッグがふわりと揺れる。


彼女は郵便屋さん、遺跡船の人々の思いを繋げる架け橋であった。





20140814


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テーマ「人外ファンタジー」
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