風介は美人さんだ


寒い寒い商店街、風介の隣で手袋のしていない手にほぅほぅと息をかけながら歩いていた私は、何気なしに見たショーウィンドウに映る彼を見て、ふとそう思った。今までにそう感じた事が無かった訳ではなかったけれど、再認識したというか、ほんとになんてことのないふとした感情。

風介とお付き合いして二度目の冬。今では彼の隣にいることが当たり前となっていた。
繋がれた手と手は、少しだけ風介に引かれる形が私たちの自然。喧嘩だってすることもあるけれど、それでも私たちは幸せなカップルだなぁ、と常日頃から感じてる。


ふと、風介が足を止めた。私はショーウィンドウに映る風介に釘づけだった。



「名前、話を聞いているのか」


風介は少しだけ怒った様子だった。私はだって、とこぼす。だってとはなんだ。だって…私の指が指すのはショーウィンドウ。風介は思い切り首を傾げてみせたので、説明することにする。すべて聞き終わった風介は呆れた様子で私のことを見た。


「ガラスに映る私ではなく、すぐ隣にいる本物を見ればいいだろう…」
「どっちも一緒だよ」
「……名前は、私が鏡に映るお前ばかりに夢中になっていたらどう思うんだ」
「うーん、それは少し嫌だなぁ」
「私が言いたいのはそういうことだ」



再び風介に手を引かれながら歩く。私の目は未だにショーウィンドウだ。
ずっと見ていたら、なんかおかしな気持ち。だって、私が、風介が、二人いるみたいなんだもの。

ガラスの中で、向こうの私は私と同じように風介とデートしている。なんだかおかしな感じ、ダブルデートみたい。嬉しくなってガラスの中の私に微笑みかけると、同じように微笑み返してくれた。風介の横顔に見とれる。ああ、私たちはお似合いなのだろうか、なんてそんなことも考えたりして。
すると風介は今度こそ怒ったように私の顔を覗き込んだ。そんなに怒るようなことでもないのでは?とも思ったが怒った風介は怖いので言うのはやめておく。


「名前、お前は私の話を聞くよりガラスを見ているほうが楽しいというのか」
「ごめんごめん、ガラスの中の私たちが楽しそうだなって思ってつい見とれちゃった。それに、やっぱり風介はかっこいいなぁって」
「……」

風介が私の横に立ち、ガラスに映る私たちを覗いた。私がガラスに向かって手を振ると、ガラスの中の私が振り返してくれたが向こう側の風介は難しい顔をしてこちらを見ていた。なんとなく気になり、隣にいる風介を覗き込もうとした時だった。腕をとられてぎゅっと抱きしめられる。ショーウィンドウを背に抱きしめられたので、私の瞳には…ゆっくりと近づいてくる風介の顔しか映らなかった。



「風介?」
「こっちを見て」
「……ごめんね」
「名前は私だけを見ていればいいんだ」
「うん、そうだね」



寒い寒いと思っていたけど、いつの間にかぽかぽかになっていた。風介に包まれているっていうのが大きいんだろうけど、でも他にももっと大きな…
うーん、そうだね、愛されてるなぁって思ったら…すごく温かくなったんだなぁ。

ショーウィンドウにひらりと手を振り、私は風介の腕に抱き付いて足をすすめた。




20131120

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テーマ「人外ファンタジー」
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