秋の海って、どこか物悲しいんだよね。夏はうるさいくらいの声に包まれ燦々と輝いていた砂浜も、今では私と綱海しかいない。
夏の間に放棄されていたゴミを拾い終わった私は、ごみの袋を自転車の近くに置いて、それから砂浜に座り込んだ。同じくゴミを拾い終えた綱海が私の隣までやってきて、どさりと腰掛ける。


「あーーー、終わったな!」
「遊びに来るんならゴミくらいちゃんと持ち帰ってほしいよ、ホント」
「ま、いいじゃねぇか。こうして砂浜も綺麗になったんだしよ!」
「…ホント、綱海ってお人よしだよね」


波が揺れる。太陽がじき、沈んでいく。なんだか心にぽっかり穴が開いたような不思議な感覚。
海の彼方で赤と黒が溶け合っていく様子をぼうっと見つめていると、綱海がいきなり私の頭をガシガシと撫でてくるものだから、慌てて頭を抑えて綱海を軽く睨みつけた。


「なにすんの」
「いや、だってよ、お前が泣きそうな顔してるからつい、さ」
「は?そんな顔してないよ」
「してたしてた、そんな辛気臭い顔すんな!ほら、お前笑ってる方が可愛いしな!」
「ば、バカじゃないの!」


綱海はキラキラと笑った。彼には秋の海より、夏の昼間のからっと晴れた海の方が似合う。波の音が響く、涼しい風が私と綱海の間を通り抜けた。


「今年も夏が旅行に出かけていったな」
「旅行?」
「ああ、旅行だ旅行。夏は一年間旅行に出かけたんだ。だから来年には帰ってくるぜ」
「…そうだね」
「なにも変わったりしない。だからそんな不安そうな顔すんな」
「…うん」


…来年から、私たちは離れ離れになる。綱海は長く暮らした沖縄を離れ、東京へ進学する。私は地元の高校に行く。今までのように一緒に登下校したり、こうして二人で何気なく海を見ることもなくなるのかと思ったら寂しくてしょうがない。

それに私たちの関係は、ただの…ただの、同じ学校に通う幼馴染だ。距離が離れて会う機会が少なくなったら、段々と疎遠になるのが一番怖い。私は綱海に依存している。離れるのが不安だ、会えないのが悲しい。…だけど、私たちはただの幼馴染だ。


「……」
「名前、俺も夏と一緒だ。だから心配すんな」
「うそ。綱海はそのままいなくなりそう」
「絶対戻ってくるからさ」
「…うそ」
「……うおりゃ」
「っ!?」


綱海によって倒された身体、突然のことに驚きながら私を見下ろす綱海を茫然と見つめると、彼はプッと噴出した。綱海のそんな様子に眉を寄せると、彼はさらに笑いながら私の頭を優しく撫でた。


「心配すんなって、俺は絶対に帰ってくるからよ!」
「…ほんとう?」
「ホントホント、だってお前と結婚するんだったら、こっちに帰ってこなくちゃいけねぇだろ?」
「は」


ニコニコ爽やかにとんでもないことを言い放った綱海。私の思考回路は停止し、それと同時に頬がとんでもなく熱くなっていくのを感じた。私が何も言えなくなったのをどう捉えたのか分からないが、綱海はそのままの体勢でぎゅっと私を抱きしめるものだから、私の体は硬直してしまった。



「だからさ、寂しいかもしんねーけど…待っててくれよな」
「っ、あの…綱海、あんたとんでもないこと、い、言ってるよ?それって、告白、だよ?」
「ああ、そんなこと分かってるぜ?」
「い…いきなり、ビックリするし…突然だし…、その…本気、なの?」
「本気だぜ?というか俺、今までお前に言ってなかったっけ?」
「し、知らなかったよ、馬鹿ぁっ」
「いてっ」


綱海の肩をポカリと殴ると、全身の力がガクリと抜け落ちていった。そんな私の様子に気づいた綱海が、もう一度しっかりと私を抱きしめてくれた。彼の腕から感じるあたたかさと、混乱と動揺と…それから幸せな気持ちが私の中を駆け巡った。


「…私ね、東京行くって聞いて、ショックだった。綱海と離ればなれになるのが嫌だった。綱海に忘れられるのが、怖かった。綱海が、…好きだから、悲しかった。我慢しようと思ったけどできなくて、でも綱海がさっき、あんなこと言うから、私、驚いちゃって…、どうしていいか分かんない」
「名前を忘れるわけないから、心配すんな。待たせることになってごめんな、だけど…俺は絶対帰ってくる、お前のところへ帰るからな」
「……うん」


夏は過ぎて行った、爽やかな風を残して旅に出て行った。やってきたのはどこか物悲しい秋の風。だけど私はその風を受けて、そして待ち続けるのだ。夏がやってくるのを、待ち続けるのだ。


20131006
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