流し台の蛇口をきゅっと閉めた名前が笑顔でこちらを見た。美味そうな匂いが鼻をくすぐり、俺も自然と笑顔になる。

名前は週に何度か俺の家にやってきて、こうして手料理を振舞ってくれる。といっても、彼女は決して料理が得意なわけではない。ハンバーグはいびつな形、パスタの麺は少しだけ固い、それでも、心のこもった温かい晩ごはん。


夕飯を作ってくれたその日、名前は必ず泊まっていく。一人用のベッドを二人で半分ずつ使って、もちろん狭いが一人で寝る時よりずっと満たされる。名前の香りが少しだけうつった枕に頬を寄せて柄にもなくにやけたりして。


「名前、卵で包むの上手くなったな」
「ほんとう?」
「ホントホント、練習したのか?」
「出水くんってば、そういうことは聞いちゃダメなんだよ!」
「はは、悪い悪い」


最初は中身がはみ出していたオムライスも、今では綺麗に卵の口の中に収まっている。少々厚焼きだが、それがまた、いい。

作るたび作るたび上手くなっているから、きっと結婚する頃にはもっと上手くなっているであろう。そう笑いながら言うと、名前は顔を真っ赤にして怒りながら俺のオムライスに「ば か」とデカデカとケチャップで描くものだから余計に面白くて、彼女の持っていたケチャップを奪って、彼女のオムライスに少しいびつだがデカいハートマークを描いてやった。




名前が俺の家で手料理を振舞ってくれた次の日の午後、流し台の上にキラリと光る小さな指輪が置いてあった。俺の左手に輝くそれと同じものは、紛れもなく彼女のもので、俺は呆れてため息をつきながら笑う。携帯を取り出し彼女の番号を探していると、ナイスタイミング。名前からの着信だ。


「あ、もしもし?お前家に指輪忘れてたぜ」
『やっぱり出水くん家に忘れてってたんだね。今までずっと探してて、もしかしてって思って電話したの!』
「持って行くか?」
『ん、取りに行くよ。ごめんね、今日防衛任務は?』
「ないから好きな時間に来て大丈夫」
『じゃあ今から行こうかな』


そう言って電話を切ろうとした名前に、電話越しにあのさ、と声をかける。名前が間延びした声でどうしたの〜?と返事をし、俺の言葉を待つ。



「今度は指輪、置いて帰らないように、…一緒に住むか?」
『い、い、出水くんってば、そういうことは電話じゃなくて、ちょ、直接言うものなんだよ!』


引っくり返ったような声で早口に捲し立てる名前、俺は流し台の指輪を小さく指で転がした。きらりと光ったそれは、持ち主が来るのを今か今かと待っている。




20140531


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