庭の桜桃が咲いた、暖かくなり過ごしやすい季節になった。春の訪れを感じるのは、人によってさほど差はないだろう。
三月のけだるい午後、家の外に出て目を瞑る。まだ少し冷たいが心地の良い風が吹き抜ける瞬間、私は春を感じる。全身に風を受け春の陽気に包まれていると、携帯に着信のお知らせ。


「もしもし」
「名前、今ヒマか?」
「ん〜そんなに」
「嘘つけ、縁側でのんびりしてるだけだろ」


そんな出水の声に、縁側から庭に出ると家の前の通りに自転車に跨っている彼がいた。家の前に来てるんだったらわざわざ電話をかけることないじゃない。出水とは長い付き合いだが、彼のこういうところが、ちょっとよく分からない。
自転車を家の前に止めた出水は玄関からではなく庭からうちに入ってくる。



「どうしたの、何か用?」
「いや、たまたま通りかかったから覗いただけ。そしたらお前間抜けな顔で空見てるから何してんのかなって気になった」
「間抜けは余計。今麦茶しかないけどいい?」
「ああ、なんでもいいよ」


立ち上がり家の中に入り、グラスを取り出す。底に氷を入れようと思ったが、以前出水とハンバーガーを食べに行ったとき頼んだジュースの紙コップに氷が半分以上入っててかさ増しが嫌いだのなんだのぐちぐち言っていたのを思い出して止めておいた。
麦茶をそそぎ、その辺にあったせんべいを2つ掴んで出水のもとへ戻ると、彼は庭に咲いたさくらんぼの木を眺めていた。



「これ、桜なのにもう咲いてるんだな。公園の桜とかまだ蕾なのに」
「桜は桜でもこれは桜桃だからね、花になるのは少し早いの。このあと実がなるよ」
「さくらんぼの木ってやつ?」
「うん」
「うわ、こんだけ大きいと食べ放題じゃん」
「そうでもないよ、鳥とか来て半分くらい持ってかれちゃう」
「なにも対策しないわけ?」
「んー、別にいいかなって」
「なんだそりゃ、意味わかんねぇ」


せんべいも食べ終わりグラスの麦茶も減ったころ、ぽかぽかな陽気に包まれ出水と二人でけだるい時間を過ごす。桜桃の花びらがひらひらと舞った。なぜだかちょっと、物足りない。



「なあ」「ねえ」



同時だった。
なんとなく出水の言いたいことがわかり、お先にどうぞと手で表す。



「これから、出かけねぇ?というか、初めからそのつもりでお前ん家覗いたんだけど」
「うんいいよ」
「まじ?」
「まじ。私も出水と出かけたいって言おうとしてたし」
「まじ?」
「まじまじ」



だって、出水には少し似合わなかったから。こうしてのんびりしながら桜を見ている出水はとてつも違和感。そう言うと出水は俺もそうだと思ってたところだと笑った。
てきとうに支度をして出水の自転車の後ろに乗ってさあ出発。彼の背中に身を預けて風を感じる。いつもと変わらぬ春の訪れ。





20140401
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