佐鳥はずるをした。昔の佐鳥は弱い子だった、いつも私の後ろに隠れていじめっ子たちに怯えているような情けないやつ。
いつもへらへら笑って名前ちゃん名前ちゃんって私についてきて、かっこつけたがりのくせに小学4年生まで佐鳥の家には毎日のように濡れた布団が干されていたのを私は知っている。なのに、いつのまにか佐鳥はもう私の後ろに隠れて泣く佐鳥でなくなってしまった。


佐鳥はずるをした。昔は私の方が大きかったのに、いつのまにか身長も力も佐鳥の方が上になっていた。佐鳥がボーダーに入隊すると聞いて私も負けじとボーダーに入隊した。だけど佐鳥はA級のチームに入って、私はというといつまでたってもB級止まりで佐鳥の足元にも及ばなくなってしまった。佐鳥は、ずるをした。



小さいころの私は佐鳥を守ることで満足感を得ていた。佐鳥が私の後ろをついて回ってくるのが、たまらなく嬉しかった。
でも今の佐鳥は私の前を歩いていて私のことなんて置いていくんだ。、……ずるいずるい、佐鳥はずるい。ずるいよ。




「名前?」
「!!」


本部からの帰り道、いつものように一人で歩いていると後ろから声をかけられた。振り返らなくても誰だかわかる、いつの間にか呼び捨てになっていた私の名前。名前ちゃんじゃなくて、名前。心臓がぐるぐる掻き乱される。佐鳥、佐鳥、佐鳥、佐鳥!頭がいっぱいいっぱいになって、私は逃げるようにその場を駆けだした。佐鳥の焦ったような声が聞こえてきたが、お構いなしに駆ける。だが、ずるい佐鳥はまたずるをして、私に悠々と追いつきそして力強く腕を掴んだ。



「はなして、痛い」

佐鳥を睨みつけると彼の瞳が戸惑いに揺れた。だけど、佐鳥が手の力を緩めることはなかった。



「名前、なんで最近無視するんだ?おれ、なにかしたのか?お前がされていやなこと、なにかしたのか?」
「……」
「なあ、名前、おれ…お前に嫌われたくないんだよ…」
「…佐鳥が、」
「……」
「佐鳥がずるいからだよ」
「…え?」
「佐鳥、ずっと私に頼ってくれてたじゃん。なのに、佐鳥はいつの間にか私を置いてっちゃった。佐鳥どんなずるしたの、なんで私を頼ってくれなくなったの、なんで私のこと置いてっちゃうの。佐鳥が無視してんじゃん、佐鳥がずるいんじゃん、ずるいよ佐鳥の馬鹿!」


私がそう言うと、佐鳥は私の腕を離す。そしてそのまま視線を下に落として黙り込んだ。そんな佐鳥を見ていると心臓が熱くなって胸がいらいらした。



「おれは、名前を守りたかったんだ」
「……」
「小さくて弱いおれが嫌だった、“名前ちゃん”に守られるおれが情けなかった。だから、強くなりたかった。強くなって、好きな子を守りたかった」
「……佐鳥」
「でも、それが、………それのせいで名前に嫌な思いさせてたなんて、思ってなかった。本当にごめん」
「…」
「でも、おれは本気で名前のこと守りたいんだ。だから、…だから、!」


泣きそうな顔で言葉を探す佐鳥は、昔のままだった。たくましくなったけど、佐鳥は佐鳥だった。真っ直ぐで一生懸命で、ちょっとおバカさんだけど優しい幼馴染がそこにいた。置いてかれてなんてない、私の目の前にいる、傍にいてくれた、隣にいてくれた、それは私の後ろにいるより、ずっと近いのかもしれない。



「やっぱり、佐鳥はずるいよ」
「……」
「…いつの間に、そんなにかっこよくなったのかなぁ」
「…え、名前、」
「ごめんね、佐鳥。私も、ごめん。佐鳥のこと、ちゃんと見てなかった。知ってたはずなのに、ちゃんと見てなかった」
「名前、」
「……佐鳥、これからも私のコト守ってね。守ってくれなきゃ承知しないんだから」


そう言って赤くなる頬を隠すために佐鳥に抱き付くと、佐鳥の身体が分かりやすく固まって、それが面白くて笑い続けていると、佐鳥も同じように笑ってくれた。
佐鳥佐鳥、ずるい佐鳥が大好き。いらいらしていた胸が柔らかくなる。佐鳥のあたたかさが、胸いっぱいに広がっていった。





20140331
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