さくらの君 | ナノ

02


もっさりした黒髪ボブに、丸くて黒い瞳。白い肌をした小さい顔。小さくてキレイな唇の隙間から歯をちらりと覗かせて微笑む姿に、潤の心臓はキュッと締め付けられた。久しぶりのトキメキに、ノートに文字を書き綴る潤の手は止まらなかった。


「リツ…。」



* * *



「リツー!!隣のクラスだったんだなあ!一緒じゃなくてさみしー!!」


高校生活第1日目。1-Aは突然派手な男子が乱入してきてざわつく。
入試満点、西第二高校初の快挙を成したと律は話題の男子生徒で、入学式も新入生代表として登壇したせいか、律を知らない生徒はいないほど。そんな天才が派手で馬鹿っぽい男子と友達という事実に、教室は更にざわついた。


「別に寂しくないでしょ。仲良いわけでもないし。自分のクラスに戻ったら?」
「っつ、つめてえ…本当にあのリツ?」
「あのリツってどのリツだよ。あ、予鈴。はい戻って。」
「っっ昼休みまた来るからな!!!ぜってー昼飯一緒に食べてください!」


律は適当にあしらい、潤を1-Bに返した。律は廊下側の一番後ろの席。潤が訪問しやすい席になってしまったと、頭が良かったことを後悔した律だった。(律は頭がいいから前の方の席じゃなくていいよな、と目の悪い生徒と席を入れ替わったのだ)
昼休みにまた来なくていいし、昼ごはんを潤と食べる義理もない。そもそもヤンキーと絡んでいると思われたくない。律は昨日彼と知り合いになったのを少し後悔していた。そして、もうこれ以上関わらないでおこうと心に決めたのだ。


「(それにしてもいかんせん、馬鹿っぽいやつ…というか馬鹿しかいないな。)」


律は教師の話を聞き流しつつ、クラスを満遍なく見渡す。そして軽く溜息を漏らす。

実は、律はゲイである。西第二高校は男子校なので、律にはもってこいではないか!何が憂鬱なんだ!と思われるかもしれないが、それは違う。もしも西第二高校がインテリが集うエリート進学校な男子校であれば、律にとって天国だったであろう。
律の好きなタイプは、頭の良いアンニュイで耽美系な黒髪男子。偏差値の低いヤンチャばかり集う西第二高校は、律にとって何の得もないのである。

西高に受かっていれば…と、西高の受験を思い出してはまた憂鬱になる。


憂鬱なまま時間が過ぎ、気づけば昼になっていた。


「君、食堂で一緒にご飯食べない?」
「え?あの阿久津くんは…。」
「(なんで阿久津の名前知ってんだよ)別に約束してないし、そもそも仲良くないんだよね。」


半ば強引に、クラスの中では若干おとなしく可愛い系の男子を食堂に連れていく。
潤は1-Aの教室、中庭など律を探しまくった。さすがに人の多い食堂に行かれては、律を探すことはできなかった。たとえ食堂に来たとしても、人混みのなかでも目立つ髪色をしている潤。ピンクを発見したら、律はすぐに逃げてしまうだろう。


「リツどこだよ…!根暗だから一人でどっかに隠れて食べてんじゃねーだろーな…!」


失礼にも聞こえるような心配事を吐きながら、潤は昼休み中、終始律を探していた。
律に恋愛感情を持っているわけではない。潤は元々ノンケで女の子が好きだ。彼女がいたことだってある。しかし、男である律が、昨日からずっと気になってしまうのだ。


『気になるやつできたけど、昼飯一緒に食べる約束すっぽかされてる』


寂しさを紛らそうと、とあるグループラインに書き込む。


『潤くんドンマイ!というか気になるやつって…潤くん男子校でしょ??』
『とりあえず思いついた感情メモっておいてね。』

「真尋はまだしも、聡にいたっては心配すらしてくれてねーな…。」


ちょうど、昼休み終了の予鈴が鳴る。と同時に、潤の腹の虫も鳴いた。
食べ損ねた昼食は、こっそり授業中に食べてしまおう。そう考えながら教室に戻る潤は、自分では気づいていないが珍しく悲しい顔をしていた。


* * *



結局、潤は昼休み以降も、律と会えることはなかった。
帰り道、桜並木のベンチに腰掛けた潤はノートを開く。桜を見上げては、昨日のことを思い出してノートに感情を書き綴る。

桜を見ては思い出す、彼のこと。彼のムスッとした顔や貴重な笑顔。…今朝の冷たい顔。


「…また明日頑張るか。」


ノートに桜の花びらが挟まるも、そのまま閉じてリュックにしまいこむ。ノートに書き綴った言葉を思いついたメロディに乗せ適当に歌いつつ、ベンチから腰を上げた。
恋に似たトキメキを綴る歌詞なのに、メロディは切なく儚い。歩き出した潤の足取りは重かった。


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