夜明けへの階段 | ナノ

02


たっぷりの愛情が込められた甘ったるい朝食。新しい制服。


再スタートの準備は、万端だ。


「荷物、持てる?」
「持てる……けど、ドア開けてくれない?」


困ったように笑うKynttilaは、右手で荷物を持っている状態のため、ドアを開けることさえ困難だった。ましてやその左手は、楽器を弾くことさえできなかった。
TUDEがドアを開け、Kynttilaは礼を言って彼を見上げた。心配そうな顔をしている。大男のくせに情けないな、と普段のKynttilaなら思うだろう。今も思ってはいるが、なぜか今は口には出せないでいた。


「大丈夫だって。すぐに学校で達也たちと合流するし……。後で連絡するよ。」
「…おう。気をつけてな。」
「おう。」


そう言ってKynttilaが笑うと、安心したのかTUDEは普段通りの表情に戻った。それから、いつもの笑顔をみせた。TUDEは普段から口角が上がっていて、優しい顔つきをしている。Kynttilaは、そんな彼の顔を見ると安心した。そして何よりTUDEの笑顔が一番好きで、思わず背伸びして唇を重ねた。
TUDEは少し目を見開いて驚いたが、目を細めて微笑んだ。


「いってらっしゃい。」
「いってきまぁす。」


TUDEの見送りを受けながらアパートを出て少し歩くと、世保谷(せぼたに)兄弟がKynttilaを待っていた。世保谷聖也と達也は、双子の兄弟だ。Kynttilaが今日から通う西高校の制服を着ている。彼らは以前から西高校に通っているのだ。


「キュンさん、おはようございます。」
「先輩ちっす。」


礼儀正しく挨拶をした方が兄の聖也。柔らかい雰囲気に、胸下まであるサラサラの長い髪が、より一層物腰の柔らかい聖也を女性的に見せていた。
少しチャラい挨拶をした方が弟の達也。チャラいけれど、Kynttilaには忠実な可愛い後輩であった。


「おはよー。待ち合わせしてたっけ?」
「してなかったですね。」
「一緒に行きたくて、待ってたっす!」
「はぁ?……可愛いこと言うじゃん。」


照れ臭そうに笑う二人の頭を撫でると、さらに二人は顔をくしゃっと崩して笑った。まるでKynttilaの弟かのようで、Kynttilaは温かく愛しい気持ちになる。弟という生き物は可愛がりたいものだ。


三人で登校していると、だんだん西高校が近づいてきた。【西高等学校】ーー西高と略されているらしい。今日からKynttilaは、西高の一員だ。


「えっ?!KOWTのKynttila様!!?」
「キュン様が西高の制服着てる!!!」
「うちのクラスの転校生って、キュン様だったの?!」


意外とファンがいるものだな、とKynttilaはいたって冷静に思っていた。Kynttilaは、ーーもとい、Kynttilaたちは【KOWT】というバンドを組んでいる。ボーカルのKynttila、上手ギターの達也、下手ギターの聖也。そしてドラム兼リーダーのTUDE。
ベースは、昨年末に脱退”させられた”。この西高でKOWTにぴったりのベーシストを探そうと、Kynttilaは転校までして意気込んでいた。


「何の騒ぎですか?もうすぐ朝礼の時間です。教室へ……。」


耳に残る、どこか懐かしい声。聞き覚えのあるような声に、Kynttilaは振り返った。そして、振り返ったことを後悔した。


「悠介…?」
「っ…!」


悠介、とKynttilaを呼んだ男は、赤い髪が印象的な結城 薫(ゆうき かおる)。悠介にKynttilaという名前を与えた男だった。


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