夜明けへの階段 | ナノ

01


チュンチュン、と鳥が鳴いた。アパートの敷地に生えた木にとまる鳥は、まるで朝の挨拶をしているかのようにさえずる。日が昇り、眩しい日差しが顔を照らす。眩しさに身じろぎながらTUDE(チュード)は、瞼を開けた。 目覚ましを使わず自然と起きられるTUDEは、老け始めたのかと最近悩みの種を抱えている。もっとも、彼はまだ20代でそんな心配をする必要はない。しかし、彼より3歳下の恋人は、そんな彼を馬鹿にするのだ。

そんな愛しの恋人は、昨晩シゴトに出かけた。男に抱かれる仕事だ。恋人なら、そんなことは止めさせたい。けれども、恋人にはお金が必要なのだ。恋人がシゴトに向かうたび、TUDEは胸が痛かった。きっと、恋人も同じ気持ちだろう。そう思うと、もっと胸が痛んだ。

ひとりのベッドは寂しい。シングルベッドはTUDE一人が寝るには十分だが、恋人と二人で寝る感覚に慣れたTUDEは目を細め、天井を見つめながらそう思った。


すぅすぅと、自分のものではない吐息に、ハッとする。


「ティラ…?」


TUDEがティラと呟くと、隣で寝息を立てていたKynttila(キュンティラ)が目を開く。彼が恋人のKynttilaだ。


「んん…起きたの?」
「…帰ってたの?」
「帰ってきてちゃ、悪いかよ。あぁ?目覚め悪ぃな。」


口の悪い彼は、眉間にしわを寄せる。いつもシゴトの翌朝はそのまま学校に行くので、TUDEと会うことはないのだ。そういうつもりで言ったわけじゃない、と思いながらTUDEは親指でKynttilaの眉間を優しく撫でる。


「いや、帰ってくるの早くて驚いただけ。ティラおかえり、おはよう。」
「…おはよう。」


相変わらず不機嫌そうな顔をしているのは、起きたばかりだから。いつものことだ。だけど、少しだけ声色は優しくなった。

Kynttilaのことを多くの人間が「キュン」と呼ぶのだが、TUDEは「ティラ」と呼んでいるようだ。それは、独占欲からだった。


「ねえ、なんで早かったの?」
「今日から学校。転入先に行く最初の日だ。制服とか家にあんだろ、バァカ。」
「あ、そっか。」


TUDEより年下のKynttilaだが、よく彼を馬鹿にする。「バァカ」はティラの口癖で、TUDEに多用されている。Kynttilaに甘く優しいTUDEは、馬鹿にされても怒ることはない。

Kynttilaは朝に弱く、時間があればずっとベッドの上で微睡んでいる。だが、大事な用事や目的があるときは行動力がある。喉を保湿するためのマスクを顎まで下げると、「顔を洗ってくる」と言ってTUDEの口にキスを落とす。微笑むKynttilaはベッドから降りて、洗面所へ向かう。そこでKynttilaが裸だったことに気付いたTUDEは、今更ながら興奮を覚える。否応無しに主張する自身を鎮めるため、欲求を食欲へと変えた。

ベッドから降り、台所へ向かう。キッチン、と呼べるほど洒落ていない台所。そこはTUDEの城と化していた。予想外に早く帰宅したKynttila。家にほとんど食材がないことに気づくが、さすがTUDE。ホットケーキミックスをストックしていた。もちろん、甘いものが好きな恋人のためだ。

準備をしていると、洗面所から顔を洗ったKynttilaが顔を出した。


「俺ホットケーキ食べたいからよろしく。先に着替えてくるね、新しい制服だよ〜。」
「ちょうどそれを焼こうとしてた。」
「そういうとこ好きだよ。」
「俺も。」


新しい制服に腕を通すのが楽しみなのか、ご機嫌なKynttilaは声のトーンが上がる。いい音だとTUDEは思った。

会話が噛み合わなかったり馬鹿にされたり喧嘩したり。合ってないのかな、と思うことはよくある。だからこそ、こういうちょっとした以心伝心が嬉しい。

メイプルシロップなんてこの家にはなく、安いハチミツしかない。けれど、それで良いんだ。俺たちは。穏やかな空気の中、TUDEは甘党な恋人のために、ハチミツをたっぷりホットケーキにかけるのであった。




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