待人たちの恋 | ナノ

03


「今日も甘い匂いする、風紀委員長さん。」
「っ、春田か…抱きつくなよ。」


不意に現れた春田は、着生していた薫を後ろから包み込むように抱きしめた。が、それも薫に振り払われてしまった。
久しぶりに教室に訪れた春田が、風紀委員長に絡んでいると教室内はざわめく。

振り払われた春田は、すうっと眼を細める。
背後からの視線に耐えられず、薫は振り返り視線を絡めた。春田の細められた黄色い瞳は、先週のファーストコンタクトを彷彿させた。
指に絡まる春田の赤い舌、感覚を思い出し、すぐに正面を向いてしまう。


「耳まで赤いけど、どうかした?あ〜、俺が舐めたの思い出しちゃった?」
「そ、んなことないし覚えてないっ!」
「普段顔色ひとつ変えない風紀委員長が赤くなってるから、みんな注目してるよ?」


春田に気を取られていた薫は、バッと周囲を見渡した。春田の言うとおり、クラスメイトの注目の的となっていた。


「薫、どうするの?」


耳元で優しく語りかける春田の口調は、どこか誘導しているようだった。
一瞬考えた薫は、すぐに立ち上がり春田の腕を掴み教室を飛び出した。「久しぶりに教室来たのに。」そう嘆いた春田は、笑っていた。

教室から飛び出した春田と薫を見ていた準一は、ただただ驚いていた。
1年生の頃からずっと薫と一緒にいたが、あんなに赤くなっている薫を見るのは、はじめてだった。


「1限目体育だけど、間に合うのかな。てかどこ行ったんだろ。俺のストレッチのペア、薫なのに。」


二人が飛び出して更にざわつく教室内に、準一の独り言はぽつりと溶け込んだ。


* * *


一方その頃、薫は目的地も何も考えず春田を連れ去っていた。それを察した春田は、急ブレーキをかけて方向転換をした。
主導は春田へ。旧校舎に足を踏み入れ、薫も知らない、人目をはばかるスポットである屋上へ繋がる階段の踊り場まで来てしまった。

全速力で走り続けた二人の、荒い息遣いしか聞こえない。


先に呼吸を整えたのは、春田の方だった。まだ息が荒い薫の肩に両手を置き、目と目を合わせる。
いつも軽い男、というイメージの春田が真面目な雰囲気を纏っている。


「今日さ、薫いつもと違うよ。俺が教室来たとか、抱きしめたとか関係なく。どうしたの。」


春田の優しい視線、声色に薫の鼓動が早くなる。目を逸らして、伏せて。発する声は、まだ少し震えている。


「いつもって何、一回しか話したことなかったでしょ。」
「話したのは一回でも、薫はいつも委員長で頑張ってるでしょ。俺は薫のこと知ってたし、見てたよ。」
「そうなんだ…。」


「どうしたの?」2回目の問いかけで、薫は春田の胸に顔を埋めた。春田は驚きもせず、薫を受け入れる。


「ごめん、今日はおかしいんだ俺。おかしいんだよ。」
「うん、分かってるよ。」
「っ、ぅああああ!!!!」


声を荒げ泣き縋る薫を、春田は優しく包み込む。背中をさすったり、赤い髪を撫でたり。
しばらくすると、薫は静かになり呼吸も落ち着いてきた。


「無理に事情は聞かないけどさ、頼ってくれてありがとう。」
「なんでお前が礼言ってんの…春田ぁ、ありがとう…。」
「うん。」
「今日、朝から春田に会えてよかった。」


見つめあって、穏やかな時間が流れた。微笑んだ薫は、背伸びをして春田の頬にキスをする。
頬から唇を離し、また目と目を合わせたが、次は春田が薫の額にキスを落とした。


* * *


1限目の体育が終わり、皆が教室に戻ってくるタイミングで薫と春田は教室に戻って来た。


「は〜〜委員長お説教長いし!体育があったから教室来たのに!」


教室に入るなり、嘘をべらべらと口にする春田に、薫は好感が持てた。
クラスメイトも不審に思わず、「明日も体育あるから、ちゃんと来いよ。」と優しく声をかけている。

一人を除いて。


「お説教とかいって、サボっていいわけ?」
「そういうお前も体育出てないっぽいけど、どうかした?」
「…待ってたし、薫帰ってくんの。」


「ばーか、犬かよ!」と準一の白い髪をくしゃくしゃとかき乱す。
準一も、それを見ていた春田も心がかき乱されていた。

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