シュガーイン、シュガーイン


 家では話せないことだからと小洒落たカフェに連れて来られ、二人で窓際の席に座る。一緒に住んでるんだから家で話せばいいのになんでカフェなんて選んだんだろう。
 コーヒーを一口飲んで真剣な相手の顔を伺った。まあ、話の内容なんてわかりきっていた。スーツ姿の緊張している相手は、たどたどしく切り出した。
「あのな……俺、結婚すんだ……それでさ、その時の写真お前に撮ってもらおうと思って。お前、写真撮るのすごい上手いからさ」
 小洒落たカフェに男の人と二人。これって女子高生にとっては素敵なことなのかもしれないけどやっぱり話の内容はあまりいいことはなかった。
 従兄弟が、結婚するらしい。……私の好きだった人が。
 眼鏡をかけていつもは真面目そうなケイくんは、携帯電話の画面を見つめてにやけていた。
 画面には結婚相手の写真。私より何十倍も可愛らしい人が写っていた。
 まあ、母さん達が言ってるのを小耳に挟んで知ってはいたけど。
「よかったね」
 笑顔で言うと相手も微笑んだ。本当は辛かった。だけど笑顔でいなきゃやっていけないことくらいわかっていた。
 ケイくんは私の事を妹のように思っている。仕方ないと思った。5歳も離れてるし親族だ。だけど、私はケイくんのことが好きだった。
 だから、ケイくんが私の思いに気づいていないことが辛かった。でも思いを言ってしまって、もっと辛い思いをするのはイヤだった。
 ケイくんは私の気持ちを知らない。だから、こんな酷いことが言えるんだと思う。私はそんな気持ちを顔に出さないように笑った。
「おめでとう。……わかった、任せてね」
「ありがとう。そのかわり、お前が結婚するときにはすごい祝ってやるからな」
「うん……期待してる」
 上機嫌なケイくんを私はただ微笑みながら眺めた。ケイくんが今までこんなに嬉しそうだった時はなかった。
 カメラは、感情を切り取る道具。だから好きだ。小さな頃から父親の古い一眼レフを持ち出してはケイくんを撮ってきた。笑顔も泣き顔も。
 だから余計悔しいのかもしれない。ケイくんを知らない女のひとに取られるのが。
「じゃあ、頼んだからな。2ヶ月後の式には参加してくれよ? 招待状送るからさ」
「うん、わかった。いいよ。ケイくんの幸せな姿を撮ってあげる」
 ケイくんは照れたような笑顔を浮かべる。
「じゃあ、今日は付き合ってくれてありがとう」
「……ねぇ、ケイくん」
「どうした?」
「私、ちょっと一人でやらなきゃいけないことあるからカフェに残ってたいんだけど……先に行っててくれない?」
 私の言葉にケイくんは目を丸くして驚いたような顔をした。だけどすぐに苦笑いを浮かべて頷いた。
 普通、気づいてくれないかな。……まあケイくんだから仕方がないのかもしれないけど、私だってちょっとは心配されたかったのに。
「わかった、じゃあ先に帰ってるからな……あ、勘定俺がしとく」
 少し大きな音をたててケイくんはたちあがると、さっさと店員さんにお金をはらい、朗らかな足どりで出ていった。
「ケイくん……知らないよね。私が苦いコーヒー飲めないのなんて」
 テーブルにおいてある角砂糖を一つ、二つと落としていく。溶けて、消えていく。
 こんな風に、私の気持ちも消えればいいのに。ケイくんに対する甘い気持ちはもう既に苦い気持ちに飲まれてきえたけど、角砂糖を入れすぎたコーヒーみたいに甘くなればいい。
 角砂糖を10個くらいコーヒーに入れてから飲んでみた。まだ苦かった。苦くて、涙がでた。

 バイバイ、愚かで愛しい人。あなたのことが好きでした。

 そんな悲しい気持ちもコーヒーと一緒に飲み込んで私は泣いた。






月魚様に提出


こっそりも描いてみた
(11/04/05)







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