私には、妹がいる。
大切な大切な妹。
妹は、怖くて狂暴で不器用で素直じゃなくて……正直憎たらしかった。
だけど、私にとっては大切な大切な妹。
この世に一人しかいない私の姉妹なのだから、嫌いになれるわけがなかった。
だけど、私は妹を妬んでいた。
運動でも、勉強でも、妹はいつもトップクラスだった。
いつも落ちこぼれの私とは大違いで。
それは、誇りでもあり、羨ましくもあった。
なんで私は出来ないんだろう。
どうして、うまくいかないんだろう。
いつもそういうことを考えながら生きてきた自分がいた。
だけど、ある日。
妹は腕を壊した。
体操部でやっていた段違い平行棒のせいで。
段違い平行棒は鉄棒と同じようなものだ。
鉄棒の二段バージョン。
妹の得意な競技だった。
妹は平行棒から落ちて、そして、片腕をしたたかに打ち付けた。
あの気丈な妹が痛い痛いと泣いているのを私はただボンヤリと見ていた。
どうせまた、たいした怪我じゃないだろう。
そんなことを考えながらボンヤリと見ていた。
――妹は、大変な怪我を負ってしまっていたのに……。
それから、妹は入院した。
手術を受けるのだという。
体操部はもうやめたらしく、時折見せる笑顔は妙に寂しげだった。
「はな、大丈夫?」
妹に尋ねると今は気丈に微笑んだ。
「うん。大丈夫。……ありがとう、お姉ちゃん」
その言葉を言われた瞬間、私の心をチクリと針が突き刺さるような痛みが襲った。
罪悪感だった。
私は、妹を妬んでいて。
いつか妹が体操をやめればいいと思っていた。
……段違い平行棒から落ちればいいとも心のどこかで思っていたかもしれない。
その言葉はのろいとかそういうのでもなくて、だけど妹は私のそういう気持ちをさっしていたのかもしれない。
だから自分でも知らないうちに刷り込まれていて、だからもしかしたら今回の事故は偶然じゃなかったのかもしれない。
心が痛いとかそういうのじゃなく、私は自分が嫌になった。最悪だ。
妹の怪我に関しては無理な練習をさせすぎた学校のせいもあるかもしれない。
だけど、私はそんなことは考えられなかった。
『言葉には心がこめられているから使い方をまちがってはいけないよ』
私と妹が喧嘩したとき、お母さんが言っていた言葉。
あの時は聞き流してた。
だけど、その言葉の意味がやっとわかった気がした。
「はな、腕はもう大丈夫?」
「うん……ていうか言われるまでもないよ。大丈夫に決まってるでしょ?明日退院何だから」
華やかな笑顔で笑う。
こんなところも前は羨ましくおもっていた。
でも今は違う。
妹の笑顔は、私達を心配させないためにあるのだと。
最近になってやっとわかった。
妹は、私が不安なときほど私に冷たい態度をとり、嘲り笑う。
だけど最近になってやっとわかってきた。
妹はただ、不器用なだけなのだ。
心配だから、そんなことができるのだ。
妹は感情を表現するのが人より下手なだけなんだ。
一緒に暮らしてきて、なんで、そんなことにもきづかなかったんだろう。
馬鹿だな、私。
『怪我ね、治るんだけど完治までとはいかないみたい。』
前に、お母さんから聞かされたことを思い出す。
『日常生活では支障はないんだけど、腕を使った激しい運動は控えなさいってお医者さんが言ってた。……だから、はなが好きな体育の授業も半分は見学しなきゃいけないみたい』
だけど、今の妹にはそんな雰囲気が微塵も感じられなくて。
余計に、辛かった。
「はな」
「何?」
「陸上、入らない?」
私は、陸上部に所属していた。
元来から持っていた運動神経の悪さを少しでもマシにしようと思ったからだ。
おかげで今はちょっとはましになっている。
私がこんな提案をしたのは、妹に罪悪感を持ってるからだけじゃなかった。
陸部にもそういえば肩を傷めたからという理由で入ってきた人がいたのだ。
今はエースなんだけど。
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「提案は嬉しいんだけどね。私ね、実は……まだ体操したい」
ニコリと弱々しく微笑む彼女は少し不安そうに見えた。
こんな妹の顔は初めて見た。
でも確か医師は……。
「大丈夫なの?」
「お医者さんにはダメだって言われたんだけどね。私、あの舞台の真ん中でたつのが好きなんだ。口下手で人見知りな私の、人に気持ちをつたえるたった一つの手段だから」
「そっか……」
「だから、頑張ってリハビリする。応援してね?来年には大会復帰するんだから!」
「はいはい」
こんなに元気なら、言うことはないのだろう。
少しほっとした。
私にとって、妹はサクラだ。
散りそうだけど力強く咲き誇るサクラ。
きっと妹は必死でリハビリするだろう。
無理矢理にでも腕を完治させるだろう。
そう考えると、何故か少し嬉しくなった。
私は結局妹のファンなのだろう。
前、一回大きな大会で体操をやっている妹を見た時、誇らしい気分になったのだから。
だけどそれが妬ましかった。
だけど今は何故か納得できる自分がいた。
一歩ずつ慣れていけばいい。
少しずつ治っていけばいい。
来年、大舞台ではなが、咲き誇ればいいと願って……。
(おわり)
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結局はシスコン。
joie様に提出!!
(11/02/24)