「残念、俺の勝ち」
コーヒーを一口、口に含む。
ほろ苦い味がする。携帯を手の中で弄びながら目の前に座る少女に冷たく告げる
「ざーんねん。お前の負け」
僕の前で座る少女。こんな堅苦しいオフィスなんかに似合わない。
彼女は口から小さい声で呟く。
「……まだ私は負けてない」
「ん?何」
精一杯の顔で笑ってやる。
「だからー……お前に逃げ場はないだろ?」
「……」
少女は無駄に冷静だった。
この歳の子供がこんなにも真剣な顔をするとはな……。
「いい加減負けをみとめろって……」
「は、バカじゃないの?負けなんて認めませんっ!」
いらっ。流石にムカつくな。
おませさんめ。つーか年上相手に敬語使わないって何もんだこいつ。
「じゃあ、勝てるなら証明しろよ。いまんとこ俺が勝ってんだけど?」
「うるさい。今考えてるの」
少女は考えこんでいるのか頭を抱えている。
小さい女の子と二人きりとかもう正直勘弁してほしいんだけど。子供なんて苦手なのにさ……。
なんであいつらも俺にこいつの世話なんか頼むんだよ……。くそぅ。自分でやればいいだろそんくらい。
「仕方ない。あいつが帰って来る前ならいくらでも考えさせてやるよ」
俺が言った言葉にも応じず少女はただ唇を噛んで俯く。
「……早く帰ってこいよ……全く」
俺は入り口をちらちらと何回も見た。
そして、外の光が差し込んで。
「たっだいまあ!昼飯買ってきたぞ……ってあれ?コウくんまいちゃんを見つけてくれたんだ。さすが」
テンション高く飛び込んできた春日を見ると俺はとりあえず無駄に丈夫でふかふかしている椅子から腰を上げた。
「まあ……つか、疑ってたのかお前」
睨むと宥めるようにまあまあと春日が俺の頭をなでる。……逆効果だ、それ。
コウというのは俺の名前、まいというのはこの少女の名前だ多分。……そういえば下の名前は今聞いたんだな。うん。
「一生帰ってこなければよかったのに」
まいは春日に向かってそんなことをいった。だが春日は無駄な精神力の持ち主のためまいの言葉を無視した。
「何々?二人で何かしてたわけ?教えてよ」
春日は恐ろしい笑顔で俺にといかける。全くこいつも大人気ない。
春日のことだしどうせまいを俺がいじめてたとでも思ってたんだろう。
「二人でチェスしてただけだろ。見てわからないのかよ?」
「コウは相変わらず言葉が乱暴だね。……まいちゃん、怖くなかった?」
「別に怖くありません、むしろあなたに帰って来てほしくなかった」
まいはチェス盤を見つめ、春日はどれどれとチェス盤を見に来る。
「あらー……子供相手に大人気ない。えげつないね、コウ」
チェックメイト。もう王様は動けないというとこまでとことん追い詰めてあるチェス盤を眺める。
……最初は手加減するよていだったのによ……。
「こいつが正直うざったくてな」
まいを見ながら言うと、春日とまいが同時に怒った。
「俺の可愛い姪っ子になんてこというのさ」
「自分より小さな小学生の子供をいじめるなんてあなたはなんて根性のねじ曲がった残念な人間だね」
春日の言葉よりまいの言葉が俺を刺激する。……このガキ、本当小学生なのかよ……。
「つか、なんだよ。未だに女なのに一人称俺か……直ってねーじゃん」
俺がそういうと春日は俺をおもいっきり睨んだ。
「いいじゃん別に。……コウ、まいの面倒みてくれてありがとう」
まいは、春日の姪っ子だ。どういうわけか両親が忙しくて面倒を見られないらしく構って欲しいからなのかたまにプチ家出をするらしい。
だけど、今回はマジ家出で二日も家に帰って来なかったらしく、春日にもまいを捜すよう御達示がかかり、探偵の俺のとこまで電話をかけてきたってことだ。
「で料金の話なんだが」
「あー……後払いで。こんどご飯に行った時におごらせて?」
「誘ってるの?それ」
俺の言葉が聞こえてるのか聞こえてないのかとりあえずまいに怪我がないかどうかを確認する春日を呆れ顔で見る。
すると、まいがこっちを何故か勝ち誇った目で見てきていらつく。
「春日さん」
「ん?」
無駄に丁寧なまいの言葉に反応した春日が顔をまいの方に向けると、まいは抱き着いた。
「私、少なくとも一応は春日さんの方がこっちの方より好きです」
俺の方を指差してこっちというまいにカチンとくる。おい、人を指差しちゃダメですよって小学校か幼稚園で習わなかったのか……?
「そっか……俺もまいちゃんのこと好きだよー」
デレデレな春日を見て嘆息する。こりゃー当分食事とか行く度にこの話されそうだな……くそう
「……コーヒー飲んでくか?」
「いや……この子を両親のとこに置いて来なきゃいけないしね……あ、昼飯食っていいよ」
春日はまいと手を繋ぐとバイバイと手を振って出ていった。
残ったのは昼飯と疲労だけ……ってまたタダ働き。最悪だ。春日と話せただけで収穫って思えるほど俺は女に飢えちゃいねぇ。
「あー……マジで探偵やめてバイトやらなきゃなー」
一時休業してもだれも気にしないだろうこんなところ。
そんなことを思いつつバイトの雑誌を読んでいると電話が鳴った。
「はい、山中探偵事務所」
そういいながら電話をとると次の依頼だった。
「……これだからやめれねぇんだよな」
受話器を置いて欠伸をすると、先方に言われた待ち合わせ場所に行くための用意をし、俺はオフィスを飛び出した。
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エデンと融合様に提出!
暇つぶしにコウと春日とマイの相関図メーカーをやってみた。
(11/03/17)