ある冬の日の後悔 | ナノ
目障りな光



千鶴に教えられた居酒屋は全部が個室になっていた。メールに書かれた通りの部屋へ向かうと、千鶴の騒がしい声が聞こえてすぐにどの部屋かわかった。


「ゆっきー遅いよー!」

「30分前に連絡してきたのはどこのどなたですか」

「一番家近いし大丈夫だと思ってさ!ささ、とりあえず座って座って!」


千鶴に促されて一番端の席に座る。俺以外はもう全員揃っていた。俺の隣は悠太でその奥が春。春の前が千鶴でその隣に要。そして、俺の前には名前が座っている。ちらりと名前を盗み見るつもりだったのに名前も俺のことを見ていて、ばっちりと目が合ってしまった。


「祐希もしかして寝てた?」

「やっぱなっちゃんもそう思うー?」

「だから寝てないってば」

「祐希ちゃんと生活してる?お兄ちゃん心配ですよ…」

「あ、そっか!悠太くんも祐希くんも一人暮らししてるんでしたっけ」

「まさか祐希が家出るとはな。どうせろくなもん食ってねぇんだろ?」


また要はいちいちうるさいなぁ。要はお母さんが毎食届けてくれるんでしょ?そう言ってからかおうと思ったけど叩かれそうだったから止めた。


「ねぇね、ゆうたんは高橋さんとどうなの?」

「どうって別に…」


悠太は今高橋さんと付き合っている。高橋さんはあの高橋さんだ。悠太の初めての彼女。あの時はすぐに別れたけど、卒業間際にまた付き合うようになって、大学は別々なのに今もずっと続いている。名前と別れた俺からすれば正直うらやましい。


「同棲は!?同棲はしてる!?」

「してません」

「はっ、もしやもう結婚か!?」

「まだしないよ」

「まだ!?ちょっと要っち聞いた!?“まだ”だって!」

「あーもう、うるせぇな!耳元で騒ぐんじゃねぇよ」


バシンと要が千鶴の頭を叩いた。この光景、高校の時よく見たなぁ。俺もさっきのセリフを言ってればああなっていただろう。言わなくてよかった。


「結婚っていえば、名前ちゃんももうすぐするんですよね?」

「ちょっ、春ちゃん!」

「え?…あっ、ごめんなさ…!」


春がしまった、というような顔をして手で口を抑えた。でもごめん、さすがにこの距離で聞こえなかったふりはできない。さっきまで盛り上がってたみんなが一気に暗い顔になる。そんなのいいのに。別に俺に気を遣わなくたって。


「相手、どんな人?」

「えっ」

「結婚相手だよ」

「えっと…」


気まずい空気になるのが嫌で、俺は全然気にしてませんって態度で自分から話を振った。それなのに千鶴たちだけじゃなく名前まで気まずそうな顔をする始末。あーもうやめてほしい。俺がますます惨めなやつになるじゃん。


「優しくて、頼りになる人…。あ、5つ年上なんだ」

「えぇっ、5つも!?俺らが23だから…28か!なっちゃんすげー!」

「いまどき年上なんか普通だろーが」

「なら幼稚園のときにものすごく年上のかおり先生に恋してた要は…」

「悠太!まだお前その話…!」

「懐かしいですねー!」


なんとか話は要をからかう方向に進んだようだ。名前も少し安心したようにグラスに口をつけている。

…そっか、年上なんだ。それに優しくて、頼りにもなる。俺に比べれば経済力もあって、きっと名前も幸せになれる。俺なんかじゃ、何一つ敵わないんだろうなぁ。

始終名前の左手の薬指の指輪が光でキラキラと反射していて、名前の結婚をまざまざと見せつけられている気がした。


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