ある冬の日の後悔 | ナノ
もう手遅れ



今日は珍しく定時に仕事が終わり、荷物を持って周りの同僚や上司に挨拶をしてから部屋を出た。今日はのんびりお風呂でも入ろうだとか、昨日買った漫画の続きをビールでも飲みながら読もうだとか、帰宅後の楽しみに思いを馳せていると、誰かに後ろから肩を叩かれた。振り返ると、隣の部署の先輩がニコニコ笑って立っていた。


「浅羽くんお疲れ様!ねぇねぇ、今からご飯食べに行かない?」

「あー、すみません。今日はちょっと」

「えーっ、昨日もそうだったじゃない。じゃあ、途中まででいいから一緒に帰ろうよー」


あー、めんどくさいなぁ…。いい加減断ってる理由に気付いて欲しい。それに俺、うるさい女の人は苦手なんですよ。

ここは会社だし相手は仮にも先輩だから本音を言うことはできず、結局このうるさい先輩(あれ、もう名前思い出せないや)とエレベーターに乗り、会社の外へと出た。


「ねぇねぇ浅羽くんってほんとに彼女いないのー?」


この人は一体どこまでついてくるんだろうと思いつつ、彼女はいないのかという問には正直に肯定すると、俺の答えに嬉しそうに声のボリュームを上げた。


「ほんとに信じられなーい。こんなにかっこいいのに!」

「はぁ…そうですか」

「やっぱり学生の頃はモテたでしょー?」


またその話?昨日もこの話しましたよね?女の人って恋愛と悪口の話しかしないの?

名前は別に静かだったわけじゃないけどこんなに声は大きくなかったし、お互い黙ったままでも気まずくなくて一緒にいてすごく楽だった。それに俺がどんな話をしたって楽しそうに聞いてくれた。俺だって名前の話を聞くのが楽しかったし、名前と話をするのも楽しかった。

千鶴たちと6人でご飯を食べたり遊びに行ったりもしたっけ。要の絵でお腹抱えて笑ったり、春が持ってきたお菓子を食べたりもした。お菓子といえば、名前が作ってきてくれたこともあったけど、それが正直マズイのなんの。

毎日一緒に過ごして、たくさん話してたくさん笑って。名前を好きになるにはそう時間はかからなかったと思う。それを俺自身が自覚して、付き合うに至るまでは少し長かったけど。

俺が好きだって言ったら、私もって笑顔で答えてくれた。この笑顔を独り占めできると思うと、言ってよかったなぁって心からそう思えた。

ああ、今なら、今のこの気持ちが当時の俺にあれば、名前に謝ったのに。そして許してもらえたら、きっと高校を卒業してからもずっと付き合っていられたのに。どうして気付いたのが今なんだろう。


「じゃあ浅羽くん、好きな人とかいないの?」


今じゃもう遅いのに。


「いますよ。すごく大事な子です」


今さらまだ好きだと気付いたって遅い。



名前はもう、結婚してしまうんだ。


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