ある冬の日の後悔 | ナノ
5年ぶりの彼女
名前の雰囲気はあまり変わっていないけど、高校生の頃に比べるとずいぶん大人っぽくなっている気がした。髪を染めて、化粧なんかもしちゃって。だけど、やっぱり名前は名前のままだなって感じて少し安心した。
何か言おうと思っても何も言葉が出てこない。昔はあんなに何でも話せていたのに。ちょっと会わずに喋らなかっただけでこれとは情けない。必死に頭の中で名前にかける言葉を考えていると、名前の方が先に口を開いた。
「…祐希久しぶり」
「……うん」
「………もしかして飲んでる?」
名前はじっと俺の顔を見つめたあと、首を傾げてそう言った。
「まぁ…ちょっと」
「ふーん……もしかして女の子と?」
「…千鶴とだよ」
「えっ、千鶴?」
「うわー、懐かしい!会いたいなぁ」と言って名前は笑った。高校の時と変わらないこの笑顔を見ると、やっぱり変わってないなと思う。
「千鶴、就職できたらしいよ」
「ほんとにー?でも元気だし愛想はいいし大丈夫でしょ。そういう祐希も、仕事してるんでしょ?」
「うん」
「みんな変わっちゃったなぁ」
なんだ、普通にしゃべれてるじゃん。名前と喧嘩する前みたいに、自然に会話ができている。でも俺は、まだ名前の顔をまともに見れてはいない。目を合わす勇気もない、臆病者だ。
「じゃあ私、そろそろ帰らなきゃならないから…」
もう二度と、会う機会はないかもしれない。
直感的にそう思ったと同時に、どうにかして名前をつなぎとめておきたいという欲望が俺の中で生まれた。名前は俺のものなんかじゃないのに、勝手だ。
「また、千鶴たちと飲みにでも行こうよ」
「私もいいの?」
「もちろん」
なんとかつなぎとめておきたい、そう思った結果がこのセリフになった。みんなで集まろう、そう言えば名前も変に思わないし、きっと来てくれるはずだ。
「……それじゃあ、また連絡する」
なんとなく、名前の方から居なくなられるのが嫌で、俺が先に名前の横を通り抜けようとすると、「あの、祐希」という声が聞こえ、名前の白くて小さな手が俺の腕を掴んだ。
「私、連絡先変わってないからね」
その時、思わず名前の目を見てしまった。別に、今まで見ようとしなかったわけじゃないんだけど。
今まで散々目を合わせなかったくせに、もう目が離せないでいる。
「じゃあね、祐希」
足早に去って行った彼女の後ろ姿を、しばらくぼーっと見つめていた。
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