ある冬の日の後悔 | ナノ
小さな背中



千鶴と飲み始めて3時間は経っただろうか。もう何杯目かわからないビールを喉の奥に流し込むと、千鶴が呆れ顔で口を開いた。


「もうゆっきー飲み過ぎだって」

「千鶴が飲まないから代わりに飲んであげてるんだよ」

「別に頼んでないっつーの!あ、もうこんな時間か。俺、そろそろ帰るわ」


結局高校を卒業してからもあまり身長が伸びなかった千鶴は、まだまだ俺よりも小さい。少し足元がおぼつかない俺は、ちっさな千鶴に肩を借りながらようやく店の外へと出た。


「タクシー呼ぼっか?ヘロヘロでしょ?」

「それは千鶴でしょー」

「俺一杯も飲んでないから!一人で大丈夫?」

「ん、大丈夫」


外に出て深呼吸をすると、体が軽くなった気がした。それにさっきに比べればだいぶアルコールが抜けてきた。家もここからそんなに遠くないし、タクシー呼ばなくたってちゃんと帰れるだろう。


「じゃあなゆっきー、またなー!」

「うん」


千鶴とは逆方向だったから、千鶴に背中を向けて歩き出した。二、三歩足を進めたところで千鶴が大きな声で俺を呼び止めた。


「ゆっきー!」

「…なに?」


呼ばれて振り向くと、千鶴は少しだけ悲しそうな顔をしていた。何か言いたそうに口を開き、「あ、」とだけ息を漏らす。


「…どうしたの?」

「いや、なんでもない。今度は要っち酔わせて潰そうぜー!」

「千鶴が返り討ちに遭いそうだけどね…」


そんなことないよー!と大声を出す千鶴を無視し、今度こそ本当に別れる。千鶴の小さな背中が、いつもよりさらに小さく見えた。

千鶴の言おうとしていたことが、なんとなくわかった気がした。


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